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2013-10-14 10:02

(連載)米欧の国際関与消極化による危険な世界(3)

河村 洋  外交評論家
 欧米世界と非欧米世界の亀裂が深まると、両者の中間的な位置にある日本、インド、トルコなどの国々は難しい立場に追い込まれる。これらの非西欧民主国家は欧米と緊密な関係にある地域大国である。日本とトルコは、明治維新とケマル革命により近代化を成功させた。そして第二次世界大戦後は、両国とも西側同盟の不可欠な一員になっている。インドは、長く第三世界の指導的立場を自任してきたが、シン政権の発足以来、欧米諸国との経済的関係を深化させてきた。また、テロとの戦いによってインドと欧米との関係はこれまでになく強まった。

 欧米諸国が世界の指導的地位を忌避する一方で、挑戦者達が攻勢を強めるようになると、中間的な立場の国々は「自主独立路線」を採るべきなのだろうか?日本の鳩山政権とトルコのエルドアン政権が欧米離れを試みて、結局失敗したことを忘れてはならない。非常に興味深いことは、鳩山氏もエルドアン氏も近隣の新興経済諸国の方が欧米諸国よりも将来性のあるパートナーだと考えていたことである。

 しかし、鳩山由紀夫氏による「東アジア共同体」構想は中国の専制的な拡張主義政策によって頓挫した。トルコのアフメト・ダウトール外相が描いた「アフロ・ユーラシア圏」の中核としてのトルコという青写真も、イラン、シリア、イラクとの関係悪化で頓挫した。イスラム・ポピュリズムを標榜したエジプトのモルシ政権も失脚した。日本で鳩山氏が中国の脅威に対するアメリカの抑止力の意味を学んだように、トルコは隣国シリアの内戦に対処するうえで、信頼するに足るパートナーはNATO以外にないと実感している。日本でも、丹羽宇一郎元駐中国大使が商社マンの本能に基づいて日中外交を仕切ろうとしたが、その失敗は自明であった。

 欧米諸国は、普遍的な規範の設定とグローバルな体制の構築で世界をリードしてきた。そうした優位のルーツは、ギリシア、ローマ、ルネサンス、啓蒙主義時代にまで遡るものである。挑戦者達は、一見強大に見えるが、欧米諸国に抵抗しているだけで、実際には自分達が世界の指導的な地位を取って代わろうとは考えてはいない。ロシアはユーラシアのハートランドで、中国はアジア太平洋地域で、それぞれ優位を主張しているに過ぎない。日本やインドのような中間的な立場の諸国がなすべきことは、欧米離れすることではなく、彼らと責任を分担することである。イスタンブールがオリンピック招致に失敗したのは、エルドアン政権による「自主独立」外交策の致命的な結末と言える。むしろ中間的な立場の有力国が国際問題に積極関与すれば、欧米諸国が自信を持って世界の行方に責任を担うための後押しとなり、この方が、鳩山氏やエルドアン氏が模索したよりもはるかに建設的な政策になるといえる。(おわり)
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