国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2013-09-12 15:03

(連載)シリア情勢についての雑考(2)

河野 勝  早稲田大学政治経済学部教授
 第二に、シリアに対して軍事介入すべきだとする論者は「化学兵器を使用してはならない、あるいは市民が大量に虐殺されることは許されない、という国際規範がある」と主張する。

 しかし、一般市民が内戦で殺戮されることはこれまで世界のさまざまな地域で起こってきたし、また「化学兵器」のみが特別扱いされる理由もそれほど明確でない。おそらく、介入論者であろうとなかろうと、またシリアであろうとどこだろうと、殺されたり、拷問にあったり、餓死させられたり、というように、罪のない人々の基本的人権が踏みにじられることに対しては、誰もがけしからんと思い、なんとかその状況が改善されるべきだと考えると思う。

 しかし、もしそのような思いが、アメリカというある特定の国家に(あるいはそれに協力しようとするフランスに)、軍事介入をする大義名分を与えることを許すとすれば、それは、この世界は主権国家の集合として成り立っているという、もう一つ別の国際規範をふみにじってもよいといっていることを意味する。ここには、「人権」という国際規範と「主権」という国際規範の競合ないし対立がある。あるいは、こういいかえてもよい、(アメリカというひとつの)国家が、人権という国際規範を守るために行動しようとしているところに、根本的な矛盾ないし逆説があるのだ、と。

 第三に、介入論者は、今回の件では「化学兵器の使用は一線を超える、それを超えたら報復を覚悟しろ」と言い続けてきたアメリカの信用がかかっている、と主張する。「もしここで言葉どおりに実行しなかったら、イランや北朝鮮がそれをどう評価するかを考えなければならない」と。いうまでもないと思うが、これは、人ごとではない。今回の件については、イランや北朝鮮のみならず、中国もじっと見つめている。つまり、それは「日米安保条約の適用範囲である」と繰り返してきたアメリカの言明の信用性にも、当然かかわっているのである。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム