国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2013-08-24 12:39

予断を許さない朝鮮半島情勢

杉山 敏夫  団体職員
 先月から今月にかけ、にわかに朝鮮半島情勢に変化が生じつつある。一見すれば、緊張緩和が進み、協調的な雰囲気が醸成されているように思われるが、それは長期的で持続的な安定をもたらすものなのだろうか。北東アジアという「地域レベル」での安定は、必ずしも国際政治における「システムレベル」から見た安定と同一でない。

 確かに、南北朝鮮がさる8月14日、開城工業団地の操業再開に向けた合意書を採択した意義は決して小さくない。両者は、懸案であった「操業中断の再発防止」に合意した他、開城工業団地共同委員会を設置することや、同工業団地の国際化方案などの諸点についても合意しており、開城工業団地を中心とした南北朝鮮による交流/経済協力が今後活発化するだろう。23日からは、赤十字実務者協議が開催され、南北の離散家族問題の解決に向けた動きも進展するだろう。さらに北朝鮮は、現在進行中である米韓合同軍事演習に対する表立った反発も控えているようである。

 だが、こうした一連の北朝鮮の協調路線と朝鮮半島の緊張緩和は、あくまで北東アジアという地域レベルの分析視角から捉えた現状であり、国際政治のシステムレベルから捉えた現状と異なることに留意したい。第一に、北朝鮮は依然として核開発を諦めておらず、世界的な核不拡散体制に対する重大な挑戦国であることに変わりはない。核やミサイル技術ないし兵器そのものの中東諸国への移転ないし輸出問題も軽視できない。第二に、北朝鮮の対外政策における真の狙いは、米国を交渉のテーブルに引き込むことである。北朝鮮の最終的な目的は「金体制の存続」であり、またそのために必要な米国との「平和条約の締結」である。イランやシリア、アフガニスタン等の問題を抱える米国にとっては、余程の交渉材料がない限り、北朝鮮側に譲歩することは有り得ない。そう考えれば、現在の北朝鮮による友好的とも見える対外政策はブラフ(はったり)である可能性は拭えず、それは将来的な対米交渉を意識したものである。

 最後に、朝鮮半島情勢は米中関係の推移によって大きな影響を受ける。米国の国際政治全体における相対的な国力の低下は深刻だが、かといって米国が中国に対して大幅に譲歩するとは限らない。なぜならそれは、「自由」「民主主義」「人権」といった現在の国際秩序を支える諸価値に対する譲歩を意味するからである。加えて、米国の中国に対する譲歩は、米国の同盟国への誤ったシグナルを送ることになろう。北朝鮮の後ろ盾には、従来ほどの影響力はないにせよ、中国がいることは間違いない。米国が朝鮮半島情勢のハンドリングを中国に一任することは有り得るのか。むしろ米国はこれを良しとしないのではないか。以上より、一見友好的・協調的に見える現在の朝鮮半島情勢は、依然として予断を許す状況ではないと考える。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム