国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2013-08-02 10:03

(連載)イスラム過激派は日本人にとっても脅威である(3)

河村 洋  外交評論家
 これほどまで他の宗教と文明に対して非寛容な態度に鑑みて、アメリカの保守派とインドの政策形成者達は「良きタリバン」なるものの存在にきわめて懐疑的である。インド人はパキスタンとタリバンの関係を強く警戒し、2008年のムンバイ・テロ事件にも今なお憤りを覚えている。それらと共に、イスラム教徒のインド亜大陸侵入という歴史的体験がイスラム過激派に対するインド人の態度に心理的な影響を与えていることも多いに考えられる。2010年にはインド国民会議派報道官(当時)のマニッシュ・テワリ下院議員が「タリバンが2人のシーク教徒を斬首するようでは『良きタリバン』の存在などとても信じられない」と明言した。

 アフガニスタン和平交渉でタリバンの参加を認めるようにというオバマ政権からの要請にもかかわらず、インドはタリバンを参加させてしまえば彼らが正当性を得ることになると懸念している。今年の6月にデリーでのジョン・ケリー国務長官との会談を行なったインドのサルマン・クルシード外相は、7月初旬にブルネイで開催されたASEAN地域フォーラムの席上で「シン政権はインドとして譲れない一線が尊重されるならタリバンの和平交渉参加を受け入れる」と述べた。その譲れない一線とは、アフガニスタンの主権を代表する正当な政府とは民主的に選ばれたカルザイ政権であってタリバンではないということである。

 しかしBJPをはじめ野党からはテロリストと話し合いの席に着くという考え方そのものが批判されている。明らかに、インド人はイスラム・テロの危険性に対してアメリカ人やヨーロッパ人以上に敏感になっている。ジョセフ・バイデン副大統領は最近のムンバイ訪問でインドの不安を宥めるために「タリバンはアル・カイダとの関係を絶たねばならない」と明言した。しかしヘリテージ財団のリサ・カーティス上席研究員は「バイデン氏はアメリカが2014年のアフガニスタン撤退以後もタリバンとの秘密協定など結ばないと保証しなければならない」と論評している。

 歴史と現代の国際政治情勢に鑑みて、我々はイスラム過激派の脅威はアメリカ人とヨーロッパ人だけものであると広く信じられている認識を改めねばならない。かつて私はテレビで日本のあるニュース・キャスターが「日本人が中東に行く際には旅も安全のためにもアメリカ人から離れておくべきだ」と発言したのを聞いたことがある。そうした問題意識の低い物言いはインド人なら一笑に付してしまうであろうことは疑いの余地がない。インド人はイスラム過激派の恐怖について歴史的経験があり、それは民族の記憶にしっかり残っている。しかもそうした恐怖の記憶は9.11テロ攻撃にも劣らぬ凄惨なものである。そうした宗教的狂主義者は人種や国籍がどうあろうとカフィールに対しては無慈悲である。だからこそイナメナスの一件を忘れてはならないのである!(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム