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2013-07-31 06:49

飯島を使った“官邸外交”は不調

杉浦 正章  政治評論家
 小泉純一郎政権では事実上内閣を動かしていたといっても過言ではない内閣官房参与・飯島勲は、安倍内閣ではもっぱら隠密外交をしているが、冴えない。5月の訪朝では「すわ拉致問題が動くか」と期待が寄せられたが、2か月半たってもなんの進展もない。飯島は今月の秘密訪中の成果であるかのように「近く日中首脳会談」と講演したが、日中両国政府が完全否定。おまけに飯島は自民党が期待する内閣改造まで否定する“越権発言”。「政権で浮いているのではないか」(自民党幹部)という見方すら出始めている。7月28日の講演で飯島は、13日から16日まで北京を訪問していたことを明らかにすると共に、「私の感触では遅くない時期に首脳会談が開かれると見ている」と発言、その根拠として「習近平国家主席に近いいろいろな人と会談した」と述べた。「いろいろな人」については記者団に「軍の関係者だったり、いろいろな人がいる」とあいまいにした。この発言についての中国の反応は敏速かつ激しいものがあった。まず外務省副報道局長の洪磊が「私の知るところでは、政府の当局者と接触していない」と全面否定。追い打ちをかけるように英字紙チャイナ・デーリーが「飯島氏は政府当局者とは会わなかった。でっち上げだ」とねつ造扱いした。同紙は飯島訪中の目的について「主として北朝鮮問題を議論するためだった」と述べている。

 一方で官房長官・菅義偉も首脳会談の見通しについて「政府としてはいつとめどが立ったわけではない」と全面否定。「飯島さんの独特の人脈で行かれた」と、政府は関与していないことを強調した。日中両国政府が飯島発言を否定したことになり、飯島のメンツは丸つぶれとなった。これに先立つ5月の訪朝は、飯島が独自の朝鮮総連のルートで実現したものであるが、形としては北朝鮮にとって「飛んで火に入る夏の虫」という色彩が濃厚だった。極秘外交のはずが、すべて公表されてしまったことが物語る。北は飯島訪朝を4月までの狂気じみた核とミサイルの恫喝から転換するいい機会と捕らえたフシが濃厚だ。最高人民会議常任委員・金永南(キムヨンナム)が会って微笑外交を顕示した。北は狡猾にも飯島を方針転換のだしに使ったのだ。安倍は飯島を弁護して「拉致問題は安倍政権のうちに解決するという決意を持っていると金正恩(キムジョンウン)第1書記に伝わることが交渉していくカギだ。そのことについては目的を果たすことができた」と述べたが、そのカギは当分開きそうもない。現に北朝鮮外相・朴宜春(パクウィチュン)は2日、ブルネイでのASEAN地域フォーラムで「拉致問題は解決済み」と発言、従来の態度を全く変えていない。

 こうして飯島の“アヒルの水かき”は、さっぱり成果が上がらない状況が続いている。安倍の“官邸外交”がうまく機能していない証拠となってしまっている。一方で安倍は外務省に対して首脳会談の実現に動くよう指示しているが、中国側が乗って来るような妥協案を示したわけではない。「領有権問題は日中間に存在しない」という基本姿勢から一切変化を見せていない。首相の指示を受けて外務事務次官・斎木昭隆が29、30日に訪中し、外相・王毅や外務次官・劉振民と会談した。斎木は「さまざまなチャンネルを通じ、意思疎通を継続していくことで了解し合った」と記者団に述べたが、関係進展の様子はうかがえない。安倍としては、飯島による非公式ルートや斎木による公式ルートを取り混ぜて当面“瀬踏み”を繰り返すつもりなのだろう。折から米上院は29日の本会議で、尖閣諸島周辺や南シナ海で示威行動を活発化させる中国を念頭に、威嚇や武力行使を非難する決議案を採択した。決議は(1)米政府は尖閣諸島への日本の施政権を損なういかなる一方的な行為にも反対している、(2)米国は日本の施政権下にある領土への攻撃に対して、日米安保条約に基づいて対応する、(3)南シナ海、東シナ海の現状変更につながる主張を行うため海軍艦船や漁船、軍民の航空機による軍事力や強制力、脅迫手段を講ずることを非難する、(4)すべての当事者が自制心を働かせて対立を解決するよう強く求める、ことを強調している。安倍としては強い“援軍”を得たことになり、尖閣問題では一歩も譲らぬ姿勢を貫く方針だ。

 一方中国は、昨年9月の尖閣国有化以来の軍事面での強硬姿勢を崩す兆候は見られないものの、安倍政権が長期化するとの見通しは抱かざるを得まい。米中首脳会談でのオバマの同盟国としての日本支持の方針や、議会の決議、安倍の姿勢などをみれば、日本にせめて“棚上げ”まで譲歩することを期待しても無理、という判断に至ってもおかしくない。しかし、中国にとってのジレンマは軍事攻勢を強めれば強めるほど、日本が軍事力を一層増強して、米国との同盟を強化し、極東における軍事バランスを中国にとってより一層不利なものにしかねないことであろう。安倍はこうした事情を背景に、飯島や斎木を使って対中接触を繰り返してゆくものとみられる。当面は先に筆者が指摘したように、習近平も出席して9月5、6日にロシアで開かれるG20首脳会議で日中首脳会談が開けるかどうかだ。会談になるか立ち話程度の接触となるかは、今後の瀬踏み次第であろう。ただ8月15日の首相による靖国参拝は、日中関係の傷に塩を塗り込むような結果を招くだけであり、断念することが常識的な流れだと思う。
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