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2013-06-24 21:34

求められる研究者と実務者の歩み寄り

清瀬 孝一  大学院生
 山下英次氏の4月3日付け本欄への投稿「シンクタンクの充実による国力の増強を」を興味深く拝読させて頂きました。内容については基本的に賛同しておりますが、幾つかコメントさせて下さい。第一に、山下氏のご指摘にあるように、日本のシンクタンクは「資金的にも人材的にも公によって運営される公的機関が幅を利かせすぎて…」おり、またその「人的資源を官僚出身者に頼りすぎている」という点は、きわめて重要な指摘だと思います。そして、それ故に、日本のシンクタンクが「政府と同じような歩調で歩み、同じような政策提言をする」傾向にあることは、シンクタンクの存在意義を揺るがすものになりかねないと、私も考えます。

 しかし、第二点目として指摘したいのは、山下氏の論考はあまりにも官僚批判的であり、バランスを欠いているのではないか、とも考えられる点です。かく言う私も、例外を除けば、官僚出身の方々が日本社会のありとあらゆる場面にて「幅を利かせている」ことに対して、プラスよりもネガティブな側面が強いのではないかと考えておりますが、山下氏の論考に欠けているのは、(元)官僚の方々と共に、「如何に日本のシンクタンク機能を強化していくか」という視点ではなかろうかと思います。換言すれば、「学術社会と実務社会におけるそれぞれの強みと弱みを如何に相互に補いつつ、日本の国益に資するような議論ないし提言を協力し合って作り出していくか」という視点です。欧米型のシンクタンクは確かに魅力的ですが、山下氏が言う「偉大なる日本のシンクタンク」は欧米型である必要はなく、日本の特質・特徴を生かした「日本型シンクタンク」であっても良いのではないでしょうか。

 問題はそれをどう作るかです。様々な議論が可能ですが、私は少なくともまず、現役官僚や官僚出身者からの学術社会への歩み寄りが必要不可欠だと思います。もっとも近年、大学等の研究・教育機関では、官学連携が大いに進展していることは確かだと思います。しかし、その内実は表面的です。(元)官僚の方々は、私たち学生や研究者には経験したことのない/そもそも経験出来ない、きわめて貴重な体験談を聞かせてくれます。これは私たちの学習や研究にとってかけがえのない情報です。しかし、その話はいつ聴いても体験談であり、体系化されていません。書いたものを読めば、その分野の基礎文献さえ引用されていません。誤解を恐れずに言えば、学術的示唆に乏しいと思います。他方で官僚の先生方は、ある問題や出来事について、現場での豊富な実務経験から、あたかも「自分がそのことについて一番知っている」と言わんばかりであり、自らの経験をより一般化した形で提示することや、既存の研究蓄積の中にそれを位置付けて見せる/提示する努力を怠っているのではないか。あるいは、それをする重要性に気付いてさえいないのではないか、と私は考えるのです。

 学術社会を代表する大学の先生や研究者らも、実務社会に歩み寄る必要性があります。よく研究者らは「重箱の隅をつついている」などと揶揄されますが(重箱の隅をつつくことも私は時にとても重要だと考えていますが)、あまりにも独りよがりで、自己満足的な世界に浸りきっているように思います。例を挙げればきりがないですが、たとえば「経済」という私たちにとってきわめて身近な現象や出来事を対象とする「経済学」。その世界最高峰の某論文雑誌は、数式だらけです。モデルや理論の証明のみで、現実社会への適用例は数えるほどしかありません。大学の先生方や研究者の評価は、そうした雑誌への論文数で多くが決まります。日本の学術社会も例外ではなく、先生方はそうした一流雑誌への投稿論文に注力する傾向にあります。学術社会と実務社会、この双方の歩み寄りが山下氏の言う「偉大なる日本のシンクタンク」を作る一つの鍵だと思います。自己努力での歩みよりが難しいのであれば、それを動機付けるような社会的仕組みあるいは政策が必要だと考えます。
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