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2013-06-04 11:57

(連載)イランの世俗的民主化を求めるフェイスブック運動(2)

河村 洋  外交評論家
 シール・オ・コルシード(Shir O Khorshid)すなわち獅子太陽旗も、イランの自由を求める活動家の間で象徴となっている。この紋章はササン朝からパーレビ朝までの様々な王朝にイランの伝統的な記章とされてきた。イラン革命後のシーア派神権政権は、タウヒードすなわちアラーへの絶対的な帰依を表す4つの三日月と一本線というイスラム色の強い象徴を採用している。革命の前と後のイラン国旗を比較してみれば、両者の違いは一目瞭然である。その結果、イランの反体制派は民族の伝統的な紋章を愛国主義と神権体制への抵抗を示すために活用している。「レザ・パーレビ公式ページ」や「イラン人と友達」などの「ページ」では、カバー写真にシール・オ・コルシードが掲げられている。

 政治的な側面から見れば、イランの民主化を求めるページやグループはアメリカおよびイスラエルとの強い連帯を示している。中にはイスラム主義とシャリア法への嫌悪感からアメリカの保守派と緊密な関係にある「ページ」や「グループ」もある。そうした「ページ」や「グループ」への参加者の多くはアメリカ人および欧米に亡命しているイラン人のようだが、イラン国内からかなり多くのイラン人が祖国の厳しいインターネット検閲を潜り抜けて参加している。2009年のグリーン運動に見られたように、イランの自由を求める活動家達や一般国民はアメリカの支援を渇望している。しかし、なぜイスラエルなのか?歴史的にイランはユダヤ人と良好な関係にある。バビロニアの圧政から古代ヘブライ人を解放したのはキュロス大王である。現在、イランは中東で最大のユダヤ人人口を抱える。さらにイスラエルのモシェ・カツァブ元大統領はイラン出身であり、イラン人もそのことを誇りに思っている。現在の神権政治はイランとイスラエルとの古く深い関係に反するものである。

 イランの自由を求める活動家達が自らの主張を掲げるのはインターネットだけではない。イラン系アメリカ人は今年の4月14日にニューヨークでペルシアン・パレードというイベントを開催した。このパレードは元々、2004年にペルシア暦の正月に当たるノウルーズを祝うために始められた。このイベントの主な目的は在米イラン人の結束を高め、伝統的なペルシア文化への理解を普及させることにあるが、イランの自由を求める活動家達はイベントを利用して祖国のレジーム・チェンジを訴えるための啓発活動を行なっている。ペルシアン・パレードは完全にグラスルーツ主体で運営され、レザ・パーレビ氏やマリアム・ジャビ氏、あるいはノーベル平和賞受賞者のシリン・エバディ氏といった反体制派の著名人に依存していない。このパレードではアメリカの騎馬警官隊が獅子太陽旗と星条旗を掲げて並んで行進している。これはイランの民主化運動とアメリカの市民社会の緊密な関係を目に見える形で訴えている。

 イランが世俗的民主主義になれば、アフリカから中国にかけて大きな影響を与えるだろう。現在、エジプトとトルコではイスラム主義が台頭し、アル・カイダはサヘル地域からカフカス、中東全域に自分たちの根拠地を築いている。しかし4月30日付けの『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の論説に掲載された地図が示す通り、アル・カイダの勢力は東西トルキスタンまでは及んでいない。イランの世俗的民主化運動を支援すれば、アラブ地域のみならず北アフリカから新疆にかけて宗教のバイアスから解き放たれた民主主義を普及できるであろう。特にペルシア文化の伝統は中央アジアのイラン系およびテュルク系民族の間で根強い。よって宗教的狂信主義影響を脱した民主化のポジティブなドミノ現象が起これば、東アジア諸国を含めた自由諸国はユーラシア全土で戦略的に有利な立場となるであろう。世俗的民主主義がトルキスタンに根付いてしまえば、西側としてはテロとの戦いで中国と妥協する必要がなくなり、この国の海洋拡張主義にも人権抑圧にも断固とした対応がとれるようになる。だからこそ、本投稿がイランの民主化運動に世界の注目を集めるうえでいささかなりとも役立てばと願っている。(おわり)
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