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2013-05-31 09:31

(連載)集団的自衛権問題は改憲なしに解決可能(3)

桜井 宏之  軍事問題研究会代表
 最後に指摘したい「誤解」は、「集団的自衛権の行使を認めないと、北朝鮮から米本土に向かう弾道ミサイルを迎撃できないため、日米安保体制に亀裂が生じる」という懸念です。そもそも、そのような長距離弾道ミサイルを迎撃できるような飛翔高度を持つ迎撃ミサイルの開発は、その目途すらたっておらず、議論そのものに意味があるとは思われませんが、仮に迎撃可能だとしても、以下の理由から集団的自衛権の問題は生じません。

 弾道ミサイルの迎撃は自衛隊法上、2つの条項を根拠とします。1つは、日本「有事」でない場合を想定したもので、自衛隊法第82条の3(弾道ミサイル等に対する破壊措置)に基づいて迎撃が行われます。これは警察権の行使に相当します。もう1つは、日本「有事」を想定したもので、こちらは自衛隊法第76条(防衛出動)に基づいて迎撃が行われます。警察権の行使の一環として弾道ミサイルの迎撃が行われる場合は、集団的自衛権の問題は当然生じません。これは海上自衛隊が海上警察活動の一環として、ソマリア沖での海賊対処のために各国海軍と密接に協力しても集団的自衛権の問題が生じないのと同様の理由です。また防衛出動に基づく弾道ミサイルの迎撃は、国際法上、個別的自衛権に基づきますが、我が国に関係なく米本土に向かったとしても、「見敵必殺」の条理に基づけば現行憲法上でも破壊が可能です。

 さて現行憲法上でも問題はない米本土へ直接向かう弾道ミサイルの迎撃には、実は別の問題が潜んでいます。北朝鮮から米本土へ直接向かう弾道ミサイルは、北極経由で米本土へ向かいますので、必然的にシベリア上空を通過します。この経路を取る弾道ミサイルをミッドコース段階で迎撃しようとすると、北極海にイージス艦を展開して迎撃する必要があります。この位置から迎撃が成功した場合、放射能を帯びた核弾頭の破片がロシア領に降り落ちる可能性が予想されます。さて、核弾頭の破片がロシア領内にまき散らされた場合、その損害を賠償するのは、ミサイルを発射した北朝鮮なのか、はたまた弾頭を破壊した日本なのか?国際法の専門家がこの点に言及した文献を目にしたことがないので、不明です。

 また、核弾頭の破片を自国に撒き散らされるのをロシアが果たして傍観するのでしょうか?ロシアが北極海に展開する我が国イージス艦を実力で排除する可能性も考えられます。米国を防衛しようと日本が取った措置が、ロシアとの戦争を引き起こすおそれがあることに、誰も気付いていないとしたら空恐ろしい思いがします。(おわり)
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