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2013-05-05 02:26

(連載)日露首脳会談をどう評価すべきか(2)

袴田 茂樹  日本国際フォーラム「対露政策を考える会」座長
 平和条約問題に関連して、今回の首脳会談に関して筆者が最も関心を向けていた問題がある。それは、日ソ共同宣言(1956年)で日本への引き渡しに合意した歯舞、色丹(北方領土の面積の7%)だけでなく、東京宣言(1993年)で認めた、国後、択捉を含めた4島の帰属交渉(その結果がどうなるかは問わない)をプーチン大統領が認めるか、ということである。というのは、2000年にプーチンが大統領になって以後、彼は国後、択捉の帰属交渉をしようとしたことは一度もないからだ。彼は東京宣言の法的有効性も否定してきた。さらに、「4島がロシア領であるのは、第2次世界大戦の結果で、国際法的にも認められている」などとも述べているからだ。

 今回の安倍首相とプーチン大統領の共同宣言では、「これまでに採択された全ての諸文書、諸合意に基づいて」平和条約交渉を進めるという文言を日本側の強い要求で何とか入れることができた。「全ての諸文書、諸合意」には当然、明記されてはいないが「4島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」と合意した東京宣言も含まれる。プーチン大統領が署名したイルクーツク声明(2001年)にも、平和条約交渉の根拠となる文書として、日ソ宣言だけでなく東京宣言も含めている。日露行動計画でも然りだ。これまでの共同声明などで言及された「4島の帰属問題の解決」とか東京宣言への言及がないことは「後退」とも言えるかもしれない。しかし、最近のロシアの大国主義や領土問題に対する強硬姿勢を考えると、日本側はロシア側によくここまで認めさせたな、とも評価できる。

 「全ての諸文書、諸合意に基づいて」といったフレーズは意味がないとの見方もあるかもしれない。というのは、これまでもこのフレーズは常套的に使われてきたし、それにもかかわらず、プーチン大統領は国後、択捉の帰属交渉は一度も本気でしようとはしていないからだ。つまり、このフレーズに大きな意味を与えても無意味かもしれない。しかし、今後の交渉でロシア側が国後、択捉の主権交渉を無視するとすれば、この合意を盾にして交渉を要求すべきであり、その交渉の拠り所になる。プーチン大統領が北方領土問題の解決に本気で取り組もうとする姿勢や気迫は、残念ながらというか、予想通りというか、全く感じられなかった。プーチン大統領は平和条約問題解決に関しては、これまでと同様「経済協力などを進めることが最良のインストルメント」と、いわゆる出口論に終始した。

 これに対して、安倍首相は経済関係を飛躍的に発展させるためにこそ、平和条約締結が必要だと、異なる立場を述べた。当然のことである。記者会見で、プーチンが極めて冷たい突き放した態度を示した時があった。TBSの記者が、ロシアは北方領土の開発を積極的に進めているが、領土問題解決へのその影響を尋ねた時のことだ。日本人としては、もし返還する気があるなら本格的なインフラ整備を行うかという疑問があり、当然の質問だった。安倍首相は日本の立場と相いれない、と述べた。プーチン大統領は記者に、「あなたはメモを手に質問したが、メモを作った人に伝えてほしい」とかなり侮辱的、挑発的な言葉で始めた。そして、「悪意のある質問には厳しい返答をせざるを得ない」という意味の言葉を述べた。真面目な質問に対するこの冷たく突き放した態度は、領土問題の解決に熱意を持っている大統領の態度とは到底思えない。またもし本気で解決したいと思っているなら、プーチン大統領は「外務省に指令を出そう」などと他人事のように言うはずはない。外務省と首脳の連携強化が謳われたが、外務省に決定権があるわけでなく、安倍首相も述べたように、主権問題は首脳の、つまりロシア側ではプーチン大統領の決断事項だからだ。しかも、外務省間の議論は数十年にわたってされ尽くされている。一見前向きの姿勢を示すための単なるポーズ、あるいは時間稼ぎとしか思えない。(つづく)
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