国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2013-04-16 05:52

市長選惨敗で維新の賞味期限切れ露呈

杉浦 正章  政治評論家
 4月14日に投開票された兵庫県伊丹・宝塚両市長選で日本維新の会の惨敗が物語るものは、同党の“縮み現象”である。安倍政権が安定的支持を維持するのと反比例するかのように、維新共同代表・橋下徹の人気が下降、選挙の重圧に耐えられなくなってきたのだ。要するに、浮ついた第3極なるものの出番がなくなりつつあるということだ。これは6月の都議選や7月の参院選での不振に直結し、維新を軸とする政界再編は極めて困難になったことを意味する。大阪府外の首長選で初めて公認候補を立て、橋下以下幹部をフルに投入したにもかかわらず、結果は惨敗であった。参院選に向けて飛躍を目指した作戦が裏目に出たのだ。神戸新聞幹部が昔筆者に「大阪とは人種が違う」と漏らしていたことを思い出すが、維新の進出への拒絶反応はこの“人種の違い”に根ざしているところが大きい。大阪の“こてこて”の現実主義に対して、神戸が知的・理性的傾向を持つのだ。そこに維新が大阪都構想なる者を掲げて乱入、兵庫県知事・井戸敏三をして「領土拡大か」と言わしめるほどの反発を招いた。大阪空港廃港論も猛反発を食らった。こうした地域的な事情は、京都など周辺県にも拡大して行くことが予想される。

 加えて問題なのは、冒頭述べた維新が抱える“縮み”の流れだ。各種世論調査でも総選挙時より支持率は下降傾向をたどっており、ほぼ半減状態だ。加えて、昨年夏以来メディアが天才的救世主の到来とばかりに騒いだ橋下人気が、ぱたと消えた。まるで筋斗雲(きんとうん)と如意棒をいっぺんに失った孫悟空となったのだ。なぜ失ったかといえば、ポピュリズムの元祖民主党に懲りた有権者が、やはり究極のポピュリストともいえる橋下を信用しなくなったのだ。もはや橋下1人の人気だけを頼りにして大阪以外の選挙で勝とうとする戦略が甘いのだ。その傾向は既に総選挙に現れている。維新が小選挙区で圧勝したのは大阪にとどまり、それ以外の選挙区はわずかに旧太陽の党系の平沼赳夫と園田博之しか当選していない。維新54議席の内10議席が小選挙区、後の40議席が比例区当選だ。この傾向を支持率低下の傾向とあわせ見れば、参院選での圧勝などは夢のまた夢ということになる。維新は「自公の過半数阻止」を旗印にしているが、凋落(ちょうらく)の民主と賞味期限切れの維新では、阻止は難しいだろう。

 なぜ賞味期限が切れたかといえば、まず橋下のポピュリズム戦略が飽きられたということだろう。どぎつい言葉で仮想敵をつくって、その場限りの論戦に勝つという、民放テレビののタレント評論家やコメンテーターのやり口を政治の場に持ち込んでも、長続きしないのだ。有権者にはガバナビリティ(被統治能力)が民主党のおかげで育ち始めているのだ。橋下の神通力喪失に加えて、維新の抱える構造的な問題もある。まず、国会議員団の立ち位置が曖昧模糊としていることだ。もともと自民党を出たものの、同党保守派と主張の変わらない旧太陽系は、高齢化が進んで、加齢臭ふんぷんの世代だ。革新の気風などどこにも感じられない。議員団を束ねる共同代表・石原慎太郎は、朝日とのインタビューで「日本は強力な軍事国家になるべきだ。核武装を議論することも、これからの選択肢だ」とついに本音を吐いた。

 「軍事国家で核武装」というのは、まさに「日本は北朝鮮になれ」と言っているのと同じだ。石原は維新綱領に現憲法を「日本を孤立と軽蔑の対象に貶(おとし)めた」と書き込ませたが、改憲派も尻込みする“突出”ぶりだ。要するに、石原は全く国民感情を掌握出来ていない政治家へと“成長”したのだ。高齢で明らかに極端に走る傾向が一段と濃厚になっており、橋下ではこの“暴走老人”を止める力がない。この石原を自民党副総裁・高村正彦が4月15日「『憲法破棄』と言ったら、未来永劫(えいごう)改正できない。私は彼を政治家と思っていない。政治家でない人が心情を吐露しているだけだ」と切った。こうした大衆迎合型政党は、政権政党に大汚職や大失政がないかぎり居場所を見つけることが困難なのだ。あのロッキード事件で新党結成に成功した新自由クラブは、自民党政権の復調の結果10年で自民へと合流したが、維新の退潮はこれより数段速いテンポで進む感じがする。学級崩壊が止まらない民主党の議員らも、“逃げ場”を維新に設定することはちゅうちょし始めるだろう。ましてや党を分裂させてまで合流する流れは頓挫だ。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム