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2013-04-11 06:59

国会は「亡国の定数削減競争」をするな

杉浦 正章  政治評論家
 衆院の選挙制度抜本改革問題が究極のポピュリズムに陥ってしまった。自民、民主、維新の改革案はいずれも定数の削減数を競っており、民意の吸収が最大の使命である国権の最高機関たる国会の機能が縮減される弊害に目が向いていない。根底には「政治家無用論」のマスコミに“媚び”を売っているとしか思えない意識が潜在する。自ら無用論に組みしてどうするのか。国会が縮小すれば、為政者はより強権を行使できる。極めて危険な方向を向いていると言わざるを得ない。維新の削減数は何と144人減で、小選挙区240、比例区96にするという。その根拠はと言えば「3割削減」という大ざっぱな判断があるだけだ。何でも目立てばいいという共同代表・橋下徹の大衆迎合路線そのままだ。既に選挙区30、比例区50の削減を主張している民主党は「われわれと極めて近い」(幹事長・細野豪志)と維新にすり寄る構えを見せている。自民党に至っては、比例区を30削減し、60の優遇枠を少数政党に設けるという。公明党を抱き込むために1票の価値に差をつけた改革であり、憲法違反の色彩が濃厚だ。

 一体なぜ政党が愚かな定数削減競争に陥ったかと言えば、根底に20年にわたるデフレぼけがある。民間企業はリストラに次ぐリストラによる縮小均衡で、生存競争をしのいできており、マスコミ、とりわけ大衆におもねる民放テレビが愚かにも、その風潮を国会議員に当てはめようとしてきたのだ。「政治家無能論」を説くことほど視聴率が稼げるものは無い。これが「政治家無用論」と直結するムードを醸成してしまったのだ。しかし政治家は少なくとも、みのもんたよりは有能であることを知らなければならない。しかもOECD加盟34か国中、国会議員の数は日本が33番目だ。人口100万人あたりの議員数ではスエーデンが38人で最多。イギリス22,カナダ12、ドイツ8人といった順で、日本は5人だ。最低は米国の2人だが、これは異常ともいえる。米国の有権者は大統領選に目が行くあまりに、議会への参加権を阻害されていることに気付いていないのだ。

 明治以来人口は4000万人から1億3000万人に増加したのに議員定数はほとんど変わっていない。国会議員の定数を削減することが、国政にどう響くかだが、削減すれば国会は機能しなくなることが目に見えている。そもそも政治家の活動とはどういうものかを説明すれば、政権政党である自民党の場合、調査会と部会で法案と政策を決定して上部に上げる構造をとっている。毎朝10を越える調査会や部会が開かれ、ここで審議が行われる。いわば政策特訓の場である。ところが政権党になれば、大臣、政務官などで行政に100人程度が移ることになる。調査会や部会の運営に支障が生じたらどうなるか。あの民主党政権と同じで、党論が2分裂3分裂して、政権はにっちもさっちもいかなくなって暗礁に乗り上げるのだ。与党での審議が不十分になれば、それだけきめ細かく民意をくみ上げることはできなくなる。民間のリストラとは根本的に次元が異なる。国会議員1人にかかる費用は年間1億円だが、その予算などは国家経営においては微々たるものである。削減して民意が反映しない方が弊害が大きいことは目に見えている。加えて国会のチェックがおろそかになれば、喜ぶのは政府だ。いいかげんな法案、政策がどんどんパスしてしまい、首相は独裁的になり得る危険を秘める。

 おまけに司法の横やりで、地方の議員を削るムードが台頭しているが、2倍程度は全くの許容範囲だ。長年筆者が政治家を見る限り、大都会選出の議員より地方選出議員の方が総合力において有能である。先に指摘したように、首相の数を人口比で比較すれば東京、大阪、名古屋は極めて少ない。また多様な地方の民意の反映も、国政には不可欠である。地方の数だけ削るなら、地方の自治権がバランス上拡大されなければならないが、分権の思想と定数削減は全く結びついていない。従って、維新が決めた144人削減案などは、ど素人による究極のポピュリズムの象徴であり、自らの自治権拡大の主張とも逆行する。まさに亡国の定数削減案であろう。各政党ともどうせ削減など実現するわけがないから、その場しのぎのご都合主義丸出しの削減案を提出する。そして「自ら身を切る案」(自民党幹事長・石破茂)といけしゃあしゃあとテレビで語るが、国民の判断力をなめてはいけない。もはや小選挙区比例代表制のポピュリズムの弊害ははっきりしたし、政治家が村会議員並みに小粒化する傾向も明らかだ。この際選挙制度を抜本的に改革すべき時である。民間人で構成する第9次選挙制度調査会を早期に発足させて、中選挙区制への復帰を軸に結論を出すべきであろう。
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