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2013-03-23 21:21

TPPと日本農業の生き残り策

伊藤 将憲  日本国際フォーラム研究員
 3月23日付けの朝日新聞が「TPP、農家の減収補填」との見出しで、農水省や自民党が、TPP(環太平洋経済連携協定)に日本が参加して、農家が打撃を受けた場合の農家の収入補填の仕組みを検討している旨を報じている。政府と農家が積み立てている「農業共済」制度を拡充して、災害被害などによる減収の補填だけでなく、農産物の価格下落による減収も補填できるようにしようという制度改革だという。確かに減収補填は必要かもしれない。しかし、日本農業の将来は、それだけで約束されるのだろうか?考えてみたい。

 現在、日本国内には放棄された遊休農地が多い。政府は農業経営基盤強化促進法に基づき「農地保有合理化法人」を設立し、離農及び規模縮小農家等から農地を買い入れ、または借り入れて、規模拡大による経営の安定を図ろうとする農業者に対して売り渡し、または貸し付ける事業を行っている(農水省ホームページ)。しかし、その成果は必ずしも上がっているとは言えない。私の所属する日本国際フォーラムは、2009年に発表した提言「グローバル化の中での日本農業の総合戦略」の中で、もう一歩踏み込んで「農地の利用は国土全体の利用計画の中に位置づけ、効率的利用を図れ」「150万ヘクタールの食糧基地を想定し、100ヘクタール規模の農業経営体1万を核とせよ」「食糧基地は農地利用を自由化した経済特区とせよ」などと提言している。

 私見によれば、日本農業にとって最も必要な緊急の政策は、農場経営を大規模化・法人化し、農業生産の効率化を推進することである。その結果、農業経営の主体が大規模法人に移ることになれば、農業機械の効率的使用、気象データや最終消費動向の把握等が可能となり、IT技術を活用した農業の第二次産業化も促進されるであろう。農作物の生産過程の管理が進めば、農業の効率化及び売上増が達成されるであろう。更に、法人化により認知度が高まれば、失業で悩む若者達の農業への就職志願者数も増え、深刻な後継者問題も改善されてゆく可能性がある。

 農家経営の小規模零細化やその担い手の高齢化と後継者不足という問題は、日本がTPPに参加するかどうかという問題以前に存在する構造的問題であって、それは農家の減収を補填すれば解決されるというような単純な問題ではない。政府と国民が一体となって、農地の保有、利用の合理化に取り組む必要がある。求められているのは、農業者のインセンティブを高める大胆な改革であり、発想の転換と日本農業の比較優位性の確立である。日本の農業は、それによって新しい活力を獲得し、成長産業とはいわれなくとも、これまでのように日本経済の足枷にはならない筈である。
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