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2013-03-11 10:22

北朝鮮制裁決議、習近平外交の試金石

鍋嶋 敬三  評論家
 北朝鮮の3度目の核実験(2月12日)に対して国連安全保障理事会が全会一致で採択した制裁強化決議(3月7日)が効果を発揮するかどうかは中国の行動が「鍵になる」(米国のデービース北朝鮮担当特別代表)。北朝鮮にとって対外貿易の7割を占める中国は死活的に重要な存在である。中国に対しては安保理の制裁決議の実行について「甘い」「尻抜け」との批判がつきまとってきた。米国に対する緩衝地帯としての北朝鮮の体制崩壊を避けなければならない立場に置かれているためだ。今回の決議は核開発関連のヒト、モノ、カネの流れを絶つため法的拘束力を持たせたものだけに、中国がどれだけ真剣に決議を実行するかが問われている。中国の責任は重い。

 国際的な圧力の矢面に立たされた金正恩政権は連日、かつてない激しい言葉で対決姿勢を示してきた。「朝鮮戦争の休戦協定を11日から完全白紙化」(5日)、「精密な核攻撃でワシントンまで火の海に」(6日)、「核による先制攻撃の権利を行使する」(7日)、「南北不可侵合意を全面破棄」「南北非核化宣言の全面白紙化」(8日)。そして制裁決議に対しては「全面排撃する」(9日)と宣言、「核保有国の地位」の恒久化を表明、非核化に応じる意思のないことを強調した。北朝鮮はこれまでも各種の宣言、合意の「無効」をたびたび表明してきたが、最近の威嚇的な言動は度が過ぎている。米国は「北朝鮮の脅しに対処する能力が完全にある」(カーニー大統領報道官)、「制裁決議の完全で透明性のある履行が重要だ」(デービース氏)と圧力を強める構えだ。北朝鮮の核開発は1990年代初めに遡る。これまでの開発の結果、6~8個の核爆弾に相当するプルトニウム20~40kgを蓄積、ウラン濃縮計画も進めている。昨年12月の長距離ミサイル発射実験の結果、米国本土も射程内に入り軍事的脅威が目の前に迫ってきた。米国の危機意識はこれまでになく高まっている。

 北朝鮮の核開発の進展は世界の核不拡散体制を確実に掘り崩している。北朝鮮は過去にシリアとプルトニウムの分離技術で協力していたことが明らかになっているほか、核開発中のイランとの協力が国際的に知られている。北朝鮮の核、ミサイル開発に対する国連安保理決議は何度も無視され国連の権威がおとしめられてきた。北朝鮮の非核化を目指す6カ国協議は北朝鮮が「存在せず」と宣言し、有効に機能していない。むしろ北朝鮮によって米国を直接交渉に引き出す場として利用されてきた面がある。これには交渉の成果を焦る米国の歴代政権にも責任がある。交渉再開の誘い水として核開発凍結の見返りに重油や食料援助、テロ国家指定の解除などアメを与えては「食い逃げ」されてきた。

 危機を演出しては譲歩を迫る「瀬戸際政策」を常套手段にする北朝鮮を相手にした交渉は一筋縄ではいかないところに問題の難しさがある。米上院のメネンデス外交委員長は過去20年間にわたる米国の対北朝鮮政策は核、ミサイルの開発を止めさせ、日本や韓国などの同盟国に対する脅威を減らすことに失敗したと政府を批判した(3月7日の公聴会)。今回の制裁強化決議は米中両国主導で決まったが、核、ミサイルの直接的脅威にさらされているのは日本と韓国である。日本には拉致問題もある。北朝鮮を非核化の交渉プロセスに戻すために何よりも決議の厳格な実施が必要だ。北朝鮮の「後見役」であり安保理常任理事国、6カ国協議の議長国である中国の習近平外交の試金石である。
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