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2013-03-04 10:18

(連載)TPPについての米国の見方(2)

角田 勝彦  団体役員
 他方、参院選対策はともかく、反対派の意見にも同意できる点がある。政治は企業発展でなく国民福祉の向上をより重視しなければならない。JA全中の万歳会長が、3月1日安倍総理に陳情したように農業の壊滅は避けねばならない。全中正規組合員(主に農家)478万人、準組合員(主に農家外)497万人といわれる関係者の福祉は尊重されねばならない。2月18日、政府の産業競争力会議で、安倍総理が、今後の農業政策について「成長分野と位置づけ、産業として伸ばす。農業の構造改革を加速し、農産品、食品の輸出を拡大する」との考えを示したのは、実現可能性はともかく日本農業の生きる道を探らんとした方針を示したのであろう。コメ部分開放を決めたウルグアイ・ラウンド合意の後6兆円の対策費を投じながら、農業の活性化につながらなかった過去の経緯を参考にしつつ、農政転換(例えば「消費者負担」から「納税者負担」への移行)を検討すべきだろう。

 米国にはその主唱する貿易投資パートナーシップに賛同しない諸国へのいらだちも見られる。筆者はウルグアイに勤務した経験もあり米国のラ米対策に関心を持っているが、最近著名な米国のラ米研究者オッペンハイマー氏のリポート(ラテンアメリカ協会HP掲載)を興味を持って読んだ。同氏は、2005年に34か国からなる米州自由貿易圏創設に向けた交渉が決裂したことを念頭において、オバマ大統領が一般教書演説の中で、TPPに加え大西洋貿易投資パートナーシップに向けた交渉開始を発表したことを説明している。

 同氏はそして、(1)今回の米国の貿易構想(米州で世界経済の47%を占める)により、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ及びベネズエラといった米国や欧州と自由貿易協定を締結していないメルコスール貿易圏の諸国は打撃を受ける可能性がある、(2)とくにブラジルはより速い速度で世界経済に参入しなければ、いつしか「かつての新興国」に成りかねない、(3)世界は、新たな巨大貿易圏のいずれかに加盟しなければ取り残される、いわば椅子取りゲームのような時代に突入しようとしている、と論評している。

 日本向けでは、ヒルズ元米通商代表部代表も「私は自由で開かれた貿易・投資がもたらす利益を強く信じて疑わない」、「(多くの懸念が日本にあることはわかっているが)私は日本が自らTPPに積極的に加盟し、WTOのメカニズムとともに、そのオープンな仕組みを活用していくべきだと思う」と主張している(3月1日付日経「私の履歴書)。TPPを日米間の問題としてのみ見て、短期の損得を評価するのは、問題の本質を過小視するものであろう。(おわり)
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