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2013-02-21 06:52

首脳会談を機に、日米安保は片務性から双務性へ

杉浦 正章  政治評論家
 北朝鮮によるミサイル・核実験の実施、中国の海洋進出と激動する極東情勢の中で行われる日米首脳会談は、米ソ冷戦時代の会談に匹敵する緊迫性を帯びる様相を見せている。日本にとってとりわけ重要なのは、日米安保条約の片務性が集団的自衛権の行使などによって双務性へと大きく変質を迫られていることだ。この安保体制の変質と再構築は日米双方にとって不可避なものとなるだろう。こうした枠組みの中で日米両首脳はTPP(環太平洋経済連携協定)など摩擦要因を際立たせることは避け、同盟重視の方針を打ち出さざるを得ない情勢となっている。一口に日米安保体制の再構築といっても、首相・安倍晋三と大統領・オバマが、民主党政権が毀損させた体制の原状回復をすればよいということにとどまるわけにはいくまい。北朝鮮と中国による“攻勢”がそれを許さなくなってきており、“極東冷戦”の構図が紛れもなく反映される。中国艦船による自衛隊へのレーダー照射、北による飛距離を米国にまで伸ばしたミサイル実験と核小型化の成功は、アメリカにのみ防衛義務を課した日米安保条約第5条解釈の片務性の修正を迫られる事態を招いているからだ。その象徴的なものが米国に向かう北のミサイルを撃墜させる集団的自衛権の行使と、自衛隊による敵地先制攻撃能力の確立だ。

 いずれの問題も、安倍政権が前向きに対応しようとしており、安倍はオバマに対してその方向性を説明することになろう。この結果首脳会談を契機に、日米安保体制は片務性から双務性へと大きく舵を切る性格を帯びることになる。米国にとっても沖縄から尖閣諸島、フィリピンへとつながる第一列島線で中国を封じ込める戦略は、維持せざるを得ない状況にあり、これは日本の安保上の利害関係とも全く一致する。したがってオバマは、尖閣諸島への安保条約適用という米政府の基本方針を改めて表明すると同時に、安倍に対して偶発的な衝突は極力回避するよう求めることになろう。また北に対する制裁措置は国連安保理決議に向けて双方が努力することを確認すると同時に、安保理で有効な決議が採択されない場合には日米韓を中心にヨーロッパなども巻き込んで、金融制裁など独自制裁に踏み切る方針も確認することになろう。さらに外交筋によると「公表するかどうかは分からない」が、安倍は、日米合意に基づき米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に向けた決意を伝える意向のようだ。

 こうした大きな流れの中で、具体的な政策が位置づけられていくことになるが、その焦点は日本の原発政策の転換とTPPだ。安倍は、民主党政権が愚かにも打ち出した、30年代原発ゼロの方針を撤回する意向を表明する。米政府の最大の懸念は、原発ゼロでは日本に原発開発を委ねてきた基本政策が崩れることにある。原発ゼロは原子力開発技術の維持向上を放棄することを意味し、安保上も極めて重要な意味を持つ日米原子力協定の崩壊につながるからだ。昨年9月8日の会談で国務長官・クリントンは首相・野田佳彦に対して原発ゼロ政策への強い懸念を表明している。野田はうやむやにしてきたが、青森県六ヶ所村の再処理工場の建設推進は、米国がもっとも期待する課題の1つである。安倍は安全が確保された原発の再稼働と、核燃料サイクルの推進をオバマに公約することになるだろう。

 TPPについて安倍は、米国の参加要請と国内の反対運動の高まりのはざまで、厳しい選択を強いられることになる。しかし、官邸筋は「流れとしては安倍とオバマがトップ同士で激論を戦わせるという場面は最悪でもありえない」と漏らしている。つまり、両国事務当局間で事前に煮詰めないままトップの“折衝”で物事を決めるような“愚策”は、両国とも避けたい考えであるからだ。おまけに極東情勢は緊迫しており、通商面での亀裂の露呈は安全保障問題にも影響を及ぼしかねない。従って両首脳はTPPで日本の交渉参加への道筋をつけることを優先させるものとみられる。たとえ全ての品目を交渉のテーブルに乗せることになっても、それに関税を課すかどうかは交渉を先行させた上で判断することになりそうだ。日本のコメや米国の砂糖を意識して、重要品目がある事を確認する様な方策が検討されているようである。米通商代表のロン・カークが特定分野の保護を前提にした交渉を否定しながらも、コメなどへの特例が設けられることを「排除しない」と述べているあたりが、落としどころだろう。したがって安倍は、首脳会談を踏まえて、帰国後にTPP参加への決定を判断できることになるだろう。
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