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2013-02-11 12:42

(連載)マリ問題と国際介入(2)

水口 章  敬愛大学国際学部教授
 では、マリへの介入は問題がないと言えるのだろうか。整理すると、次のことが見えてくる。フランスによる空爆は、国連決議に基づくものではあるが、米国、英国との事前協議がなく、単独で開始したきらいがある点である。このため、北大西洋条約機構(NATO)の介入支援準備が遅れており、また米国は「共同作戦」という認識が薄く、協力に積極的ではない(フランスからの空中給油機、高性能偵察機の派遣要請を受諾していない)。1月17日にEU外相会議で、英国の外交努力もあってフランスの介入に対する支援が決定された。しかし、国内経済問題を抱え軍事費を削減しつつあるEU各国が、どれだけの支援を行うかは不透明である。

 それは2期目に入ったオバマ政権も同様である。「移行期危機」における国際社会の協調行動では、政策合意の後の重要性が高まっている。つまり、政策の実施計画における役割分担の相互確認が以前にも増して大切になっていると言える。マリへの国際介入は、今のところフランスがイスラム過激派勢力を圧倒している状況にある。とはいえ、その主体がマリ政府および西アフリカ諸国の軍体制へと移行しない限り、フランスにとって大きな負担となることは目に見えている。現在、西アフリカ諸国の軍隊の結集および訓練は遅れている。一方、国際社会では、そのリスク分散のためどれだけ負担を引き受けるかの協議は十分にはなされていない。

 「ヨーロッパの脇腹」であるマリをはじめ西アフリカ、そして北アフリカ諸国がイスラム過激派テロリストの温床となることは、EU諸国にとって脅威である。それは、米国にも悪影響を及ぼすことになる。EUが資金や物資提供などの協調行動を継続する蓋然性は高い。今後の注目点は、内政志向のオバマ政権が事後的協議でどれだけ役割分担を引き受けるかである。

 さらにいえば、もう1つの注目点として、このマリ問題が、地中海の東側に位置する内戦が続くシリアへの国際協調行動にどのような影響を与えるかが挙げられる。「開いた地獄の釜の蓋」を閉じるには、国際介入での協調性が一番に重要となる。その協調において、果たして日本は役割を担う覚悟があるだろうか。邦人保護に役立つ重要情報を得るには、そこでの「協働」を求められることがあるかもしれない。(おわり)
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