国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2013-01-29 06:59

安倍演説は小心なる“炬燵弁慶”だ

杉浦 正章  政治評論家
 「なんだこりゃ」と思わずつぶやいたのが、首相・安倍晋三の所信表明演説であった。所信表明でなく、小心表明だ。「危機だ」「危機だ」と14回も繰り返したのはよいが、尖閣の「せ」の字も、原発の「げ」の字も、TPPの「T」の字もない。就任後初の演説から垣間見えるものは、就任当初から指摘した通りの“小心翼翼”ぶりでしかない。本会議に先立つ両院議員総会では、「この国会は極めて大切な国会だ。まさに日本を取り戻す第一歩となる国会だ」と発言したから、これは相当すごい演説になるぞと思ったら、拍子抜け。家の中では威勢がいいが、外に出ると打って変わる。「炬燵(こたつ)弁慶」とはこのことだ。筆者も長いこと政治記者をやっているが、首相演説の内容より、言わなかったことを列挙するのは、初めてだ。聞きたいことは多かった。何と言っても喫緊を要する対中外交にどう臨むかだ。公明党代表・山口那津男が訪中して、中国共産党総書記・習近平と会談、対話への突破口を開いたばかりである。首相の見解は当然出されるべきだった。石原慎太郎の言うように憲法改正など誰が見ても将来的な課題に言及する必要は全く無い。しかし対中関係は避けて通れぬ課題だ。山口にねぎらいの言葉くらいかけてもおかしくなかった。

 原発も、環太平洋経済連携協定(TPP)も、国論を二分する課題だ。しかも原発は、国の命運を左右する問題であり、自民党は総選挙において再稼働を宣言して戦った。勝利を占めるととたんに引っ込めるのは、明らかに公約違反だ。異論のあるテーマは一切避けて、誰も反対しない経済再生など無難なテーマに絞った“逃げ”とも言える演説だった。自民党内には「思慮深い」という声があるが、果たしてそうか。ことは就任早々の所信表明である。総選挙に圧勝した党の首相発言として、固唾をのんで聞くことになる。それが肩透かしだ。「1か月後に施政方針演説があるから重要課題は先に回した」というのが、本人とブレーンらの判断らしいが、まさに誤判断だ。なぜなら一か月たてば国会審議の過程で、すべての課題は掘り尽くされ、施政方針などはもぬけの殻の“二番煎じ演説”にならざるを得ないからだ。就任早々からブレーンの誤判断が目立つ。自民党は安全運転に徹すると言うが、それは国民のための安全運転ではなく、党利党略優先の安全運転ではないか。

 演説に先立って、民主党幹事長・細野豪志がいいことを、NHK討論で言っていた。「自民党の公約に目を向けると、竹島の日とか、尖閣に公務員を常駐させるとかを掲げた。我々もマニフェストでできなかったことがある。そこは反省する。しかし自民党は初めからやる気がなくて言っていたとしか思えない。そうだとすれば、これは罪深いと思う」と指摘したのだ。まさに公約違反の“確信犯”だというのだ。民主党のマニフェスト批判を繰り返してきた安倍が、こんどは攻守所を変えてで、攻められることになった。野党の反応も、極右・石原から極左の社民党代表・福島瑞穂まで一致して「物足りない」の合唱だ。自民党青年局長・小泉進次郞までから「野球では、いくら守りに徹しても、1点取らなければ勝てない。攻めるところは攻めなければならない」と言われてしまった。

 要するに、安倍も自民党幹事長・石破茂も、衆参ねじれ国会を意識するあまりに、超安全運転に徹する姿勢を貫くつもりらしい。もちろん参院選挙での逆転で長期政権を狙ったものであるが、虎穴に入らずんば虎児を得ずである。断言しておくが、長期政権などは狙って実現できるものではない。懸案に真っ正面から立ち向かってこそ実現可能となるだ。“水物”のアベノミクスを売るだけで国会を乗り切ろうとする姿勢では、早々に支持層が離反すると心得るべきだ。唯一目立ったのは、安倍の元気さだけだ。演説を聴いていた医者が、テレビで「潰瘍性大腸炎は悪化すると貧血が進んで顔色が青白くなってくる。今日の首相は非常に顔色がいいので、相当好調であることに間違いない」と太鼓判を押していた。テレビ出演ではドーランを塗るから分からないが、たしかに選挙中は青白い顔や青黒い顔をしていたことが多かった。今後あの安倍の健康状態を見るポイントは「青白くなったかどうか」であることが分かった。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム