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2006-11-24 22:17

連載投稿(1)「文明の衝突」(イスラム脅威論)の現実化

角田勝彦  団体役員・元大使
 今年のノーベル文学賞は、主に欧米とイスラムの文化的価値観の対立を描いてきたトルコのオルハン・パムク氏に決まった。その背景には、ハンティントンの「文明の衝突」が示唆したような、キリスト教文明とイスラム教文明の対立(欧米から見ればイスラム脅威論)の現実化があるとの見方が強い。9・11(米国同時多発)テロやロンドン、マドリードなどでの大規模テロ以降、過激派のみならずイスラム一般に対し、欧米などで警戒心が増したのは否定できない事実である。テロ対策としての一般的規制(米国の愛国者法など)によるものは別としても、イスラム系住民を巡る摩擦が増えている。仏政府は2004年イスラム教徒の女子生徒が公立学校でスカーフを着用することを禁じた。「多文化への寛容」を誇ってきた英国でも目元を除いて顔を覆い隠すスカーフ「ニカブ」について、06年10月に着用規制が行われている。

 ローマ法王までが、06年9月の預言者ムハンマドに関する発言で、イスラム諸国の反発を呼んだ。オルハン・パムク氏への授賞には、この対立、少なくとも暴力的対決の解消への希求が、背後にあるといわれているのである。しかし、残念ながら、暴力的対決回避への期待は満たされそうにない。武力による国際テロ沈静化はイラク戦争の経験から困難であるとして、国際的には援助増などによる不満の減少、国内ではイスラム社会との対話や同化政策の見直しなど、「融和策」を唱える声が強い。だが、欧米の「寛容政策」も限界に近付いたようである。

 「文化の多様性」擁護論は、イスラムを絶対視し、暴力に訴えても他の文化を否定(たとえばバーミヤンの大仏爆破)しようとするイスラム過激派の前に窮地に立たされてきた。テロ拡大は、寛容論に致命的打撃を与えている。イスラム過激派のジハード(聖戦)と称する国際テロは無辜の市民を攻撃対象にする。圧倒的大多数のイスラム穏健派はこれを非難しているが、中東諸国はパレスチナ紛争を念頭に「民族自決のための武装闘争はテロではない」などと主張しており、国連での包括テロ防止条約の締結は、長い間停滞している。人権と民主主義を普遍的善として、つねに強制するのはコスト面からも無理であるが、他方、人権を否定する価値観を暴力に訴えても強制しようとする行為には、強制力によってでも対抗するほかないであろう。ドイツのとっている「戦う民主主義」の原則である。(つづく)
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