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2013-01-24 06:56

錦の御旗「景気・安保」に野党の抵抗は困難

杉浦 正章  政治評論家
 1月28日に開会する通常国会は、7月の参院選以降の政局を決定づけるだけに、野党共闘が成立するかどうかが最大の焦点となる。これまでのところ野党の潮流は、日本維新の会とみんなの党の接近による第3極勢力と民主党の主導権争いとなりそうな雲行きを見せており、統一される方向にない。首相・安倍晋三がその分断を狙って維新、みんなに大接近している、というのが鳥瞰図だ。安倍の“錦の御旗”は、景気対策と尖閣問題であり、これは参院選対策としても野党が抵抗しがたい側面を持つ。少なくとも通常国会冒頭からの流れは政権側にあるが、中・終盤にかけては国会には“魔物”が潜んでおり、予断を許さない。総選挙の結果“脳しんとう”状態から脱しきれない野党トップが2人いる。民主党代表の海江田万里と維新の石原慎太郎だ。海江田は誰も実力者が手を挙げない代表選挙で選出されたが、茫洋としているだけで、鋭さがない。党をどっちに牽引するかの方向性も分からない。一方で石原は、太陽を維新と結びつけたのはいいが、結果として、狙った石原ブームなどは全く起きず、総選挙は何のことはない維新の足を引っ張っただけであった。みんなは石原と組んだ維新を見て、合流から外れ、結局自民党に漁夫の利を許した。

 民主党は、野田佳彦や前原誠司が“旧主流”とされて発言権を失い、選挙に最後まで反対した日教組の参院議員会長・輿石東が力を温存した。維新の会は「石原太陽系」と「橋下大阪系」のあつれきが生じている。こうして石原が民主党を「分裂するだろう」と批判すれば、維新もみんなの代表渡辺喜美から「橋下さんが自民の補完勢力の石原太陽系の上に乗ってしまえば、分裂は避けられる」と逆説的に分裂の可能性を指摘される始末だ。その維新と民主党が共闘を組めるかというと、まず無理だろう。なぜなら橋下は大阪で日教組とデスマッチを繰り返してきており、日教組の輿石が力を持つ民主党とは、とても組める状況にはない。それどころか23日には維新とみんなの幹事長会談が選挙後初めて開かれ、夏の参院選で自民、公明両党の「過半数割れ」を目標に、選挙協力を進めることで一致した。ただし、維新とみんなの合流は「アジェンダが違う」(渡辺)ため極めて困難だ。こうして野党は、主要政党がそれぞれの思惑を秘めて通常国会では主導権争いを展開しそうな雲行きであり、一致結束して自公政権に立ち向かう流れとはなりにくい。

 その間隙を狙って安倍は、橋下、渡辺と相次いで会談した。橋本との会談の意味するものは「石原外し」であり、今後維新とは安倍・橋下ルートで話し合いが進むことを物語る。渡辺との会談は景気対策でほぼ目的を共有するみんなとの接近を狙ったものだ。安倍は13日夜には、都内の私邸に旧知の新党改革幹事長・荒井広幸を招いて夕食を共にしている。これらの会談の意図は明白だ。参院対策にある。ねじれている参院では過半数は118で、自公両党の102議席だけでは16議席足りない。維新の3議席、新党改革の2議席、みんなの党の11議席がカギとなるのだ。こうした数合わせの根回しが着々と安倍主導で進められている。一方で、政策面での安倍戦略はもっぱら焦点を景気対策と尖閣問題に絞って展開させる方向だ。安倍はまず日銀を押さえ込んで、2%のインフレターゲットを決めさせた。次いで超大型補正予算を2月中には成立させ、公共事業でバックアップを図る。4月には日銀総裁人事を決め、5月には本予算を成立させる。一連の目標は、世論調査でも圧倒的に景気対策を求める声が強いことから、国民や市場の要求にもマッチしたものである。ということは、野党が抵抗して審議ストップなどの動きにでれば、批判の矛先は確実に野党に向かう。アベノミクスの成否が分かるのは1年か2年先であり、とりあえずはバブル的であっても、景気浮揚感があれば参院選で戦うことが可能だ。安倍はそこを狙っているのだ。

 一方、尖閣問題や北朝鮮のミサイル発射、原爆実験などを核とする安保・外交問題も国会審議の焦点となる。しかし、安倍は持論の憲法改正、尖閣への船だまり建造と公務員配置、原発再稼働など与野党が激突しかねない公約は封じてしまった。すべて参院選後への先送りとする方針だ。ただ一つ集団的自衛権の行使については、2月の訪米でオバマに約束する流れのようだ。同問題は毎日新聞の衆院議員に対するアンケート調査で、8割が「容認」と回答している。従って、法案提出の形を取るか、政府解釈の変更とするかは別として、大きな方向は実現可能であろう。こう見てくると、順風満帆の安倍ペースで通常国会を迎えることになる。しかし、高齢者医療を巡る麻生失言が物語るように、いつ閣僚の失言や不祥事が出ないとも限らない。好事魔多しであり、重心をよほど低くして対応しないと、野党を反自民で結集させることにもなりかねない危険を内包している。
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