国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2013-01-15 16:03

日本の新型ロケットこそ「事実上のミサイル」?

山田 禎介  国際問題ジャーナリスト
 先ごろある新聞の「分かりやすい解説」なる欄の一問一答に「日本の新型ロケットの特徴は、固体燃料を使うので費用、作業を軽減できること」とあった。オヤオヤ、そんなのどかな解説では済まされないのではないか。昨年暮れのどこかの国の自称「人工衛星」打ち上げを警戒するわが国では、「事実上のミサイル」との枕ことばがやたらに使われた。だが、筆者には「事実上のミサイル」とは、この解説で言う、夏にわが国が人工衛星打ち上げに使用する「イプシロン・ロケット」のことではないかとさえ思える。

 かつて筆者は「人工衛星とミサイルの間の一線は自明ではない」と、本欄で指摘した。ロケットには軍事・平和利用でのグレーゾーンが存在する。しかも今回、わが国が固体燃料ロケットを使うとなると、ますます軍事傾斜と外国から見られても弁解のしようがない。潜水艦発射弾道ミサイルが好例だが、ミサイルは移動可能な固体燃料でなければ、戦略的意味がない。固定発射台で液体燃料注入に長時間かかるようでは、スパイ衛星の格好の位置測定目標になるだけ。それが敵攻撃場面のミサイルならば、その発射前に敵方攻撃で破壊されることは必至。冷戦時代に旧ソ連が移動可能な固体燃料ミサイルをいち早く配備したとき、世界の軍事戦略地図の色が変わったことを思い出してほしい。

 自称「人工衛星」の国のロケットは、前回は発射台での液体燃料注入後、外国マスコミ陣に打ち上げを公開して、大失敗。今回は世界に「目くらまし」をかけ、密かに実施。3段ロケットは一応、目標海域のフィリピン近海に到達したが、衛星は機能していない。おまけに発射台・液体燃料注入場所は、衛星撮影写真で世界が知っていた。それをわが国では「事実上のミサイル」と呼んだ。

 ところで新聞解説は「固体燃料を使うと、人工衛星が短時間で打ち上げ可能」というが、まさにそれはわが国が軍事的に転用できる高度技術を持っていることにもなる。同じく昨年、中国初の空母と、艦上戦闘機の着艦離陸(タッチアンドゴー)が、誇らしげにマスコミに公開され、多くのメディアが「脅威だ」と報道した。でも冷戦時代を引きずるウクライナ海軍の軽空母大改造が、この中国新鋭空母の実態であり、それも最新空母必須の戦闘機射出装置(カタパルト)は未完成のままだ。それゆえ艦上戦闘機わずか一機のタッチアンドゴー「航空ショー」だった。「空母の運用はきわめて難しく、またカタパルトの技術開発は高度」とは、米海軍最高幹部が指摘するところだ。科学、軍事技術情報には冷徹な目が必要だ。やみくもに外国の脅威を唱える前に、むしろわが技術がどう展開され、どう評価されるかを考えるべきだ。 
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム