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2012-12-15 10:31

(連載)尖閣問題でどう米国を説得するか(2)

河村 洋  外交評論家
 他方で、川村泰久在ニューヨーク総領事館首席領事は、10月11日放映のニューヨークのローカル番組『インサイド・シティー・ホール』に出演した際に、尖閣に関する日本の立場を明解に述べた。川村氏は日本の主張の正当性を法的および歴史的観点から述べた。法的観点から述べると、日本は1885年に他の国に先駆けて島の調査を行なった。尖閣諸島には居住者もなく、清朝の行政管理も及んでいなかった。中国は、海底石油埋蔵の発見まで日本の主権には反対していなかった。「小さな」島の重要性を矮小化するような質問に対し、川村氏は「領土とは国家を構成する主要要素だ」と断言した。川村氏の明解で説得力のある主張に大いに敬意を表したい。

 しかし、外務省が日本の立場を訴えかけるべきメディアを正しく選んだのかどうかという疑問は残る。この番組の司会を務めるエロル・ルイス氏は、尖閣諸島を「人里離れた、一部屋かダブルベッド並みの大きさの島だ」と述べたが、これでは領土問題の重要性を理解していないように思われる。番組でのルイス氏の語調は、まるで芸能ニュースを語るかのように気楽であった。番組内では川村氏を「大使」という誤った肩書きで呼びかけたほどである。

 メディア戦略をどう成功に導くかに加えて、日本国民の間に広がるナショナリズムが国際社会での日本の印象を悪化させかねないという懸念も述べたい。これは、日本がこれまで行なってきたありとあらゆる努力を無駄にしかねない。中国の軍事的圧力の高まりとアメリカの国防力削減に鑑みて、日本はアジア太平洋諸国と多国間の戦略提携を模索している。アメリカは日本が防衛で積極的な役割を担って中国の拡張主義を防ぐことを歓迎している。しかし、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授は11月27日付けの『フィナンシャル・タイムズ』紙への投稿で「日中の間に相互嫌悪の感情から生まれるナショナリズムの衝突が見られる」と懸念を述べている。ナイ氏は、日本がかつての軍国主義に逆戻りする危険性は全くないと見ており、「石原慎太郎氏や橋下徹氏のような右翼ポピュリスト達がいかに過激な発言をしようとも、現在の自衛隊はしっかりとシビリアン・コントロールの下に置かれている」と言う。ナイ氏が懸念を抱くのは、中国国民の間に自信過剰の気運が高まり、内向き傾向を強める日本国民がますます自国の衰退に苛立ちを募らせる事態である。そのような自国中心主義による中国との相互嫌悪のスパイラルが深まれば「アメリカは日本から離れ、ペロポネソス戦争勃発時のアテネのように曖昧な態度をとるようになるかもしれない」という。

 アメリカおよびアジアとヨーロッパにあるその同盟諸国を説得するためには、日本は視野の狭い自国の国益中心の視点からではなく、国際公益の視点から発言しなければならない。また、日本は「アメリカが尖閣でアテネのように曖昧な態度をとることは、超大国の自殺行為だ」と言うべきである。日本は、サダム・フセインのクウェート侵攻にあたり、マーガレット・サッチャー英首相がジョージ・H・W・ブッシュ米大統領を開戦に向けて説得し、成功したアプローチから教訓を得る必要がある。さらに、日本の政策形成者達はエドウィン・ライシャワー・コンプレックスを払拭しなければならない。ライシャワー氏は確かに日米の架け橋として偉大な大使であったかもしれないが、日本語と日本文化への造詣の深さは現在の日米関係にとって必ずしも最重要の要素ではない。むしろ日本の指導者達が重視すべきなのは、中国の拡張主義に重大な懸念を抱くアメリカの軍部、ネオコンサーバティブ、自由と民主化の活動家といった、アメリカの戦略家達である。(おわり)
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