国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2012-11-05 06:51

野田の「不信任なら総辞職」論は通用しない

杉浦 正章  政治評論家
 貧すれば鈍すると言うが、見通しのよかった民主党最高顧問・渡部恒三までピントが狂いだした。11月4日のテレビで「内閣不信任案が可決されれば、解散でなく、総辞職だ」というのだ。憲法上は可決された首相は解散か総辞職を選択することになるが、憲政史上例のない総辞職などまずあり得ない。民主党幹部の中には、苦し紛れに不信任案とは関係なく首相・野田佳彦を引きづり降ろして、総辞職させ、代表に前原誠司や細野豪を据えて総選挙に臨む、と主張する向きがいるが、これも溺れる者はわらをもつかむの類いだ。悪あがきであり、まず実現しない。2度にわたって野田は本会議答弁でろれつが回らない失態を演じた。普段なら笑って済ませられるが、ここまで政局が過熱した状態下では問題になる。首相の心理状態が最大の関心事だからだ。官邸詰め記者を13年やったから、首相の心理は手に取るように分かるが、首相官邸という場所のストレスは並大抵ではない。どんなに精神が図太い政治家でも、1年目が一番参る。あの田中角栄が首相に就任して1年目を後日振り返って「就任早々は勢いでやれるが、1年目というのは、神経が参る時期だ」と述べている。

 「1年目はキツネがついたように何が何だか分からなくなる。自分の椅子に天地逆になって座っているような気になる」というのだ。これまで入っていた情報は入らないし、行動も護衛付きで制限され、羽が伸ばせない。激務と焦燥感で常人ならおかしくなるような場所なのだ。田中ですらそうなのだから、中の中くらいの政治家が首相になれば、ストレスは並大抵ではない。森喜朗はテレビで「ストレスでろれつが回らなくなることや、前が見えなくなることもある」と述べた。「いじめられて、朝が来ない方がいいと思ったこともあった」とも漏らす。あの巨体で悶々として寝返りを打ち、「朝よ来るな」というのだから、相当なものだ。安倍のようにノイローゼ状態になるし、福田のように突如政権を投げ出すケースもざらだ。そこで、野田がその政権をを投げ出す可能性があるかどうかだ。渡部は「不信任案が通っても解散はない。総辞職すればいい。野田首相の今の考えでは、不信任案が通っても解散はしない」と断言した。

 確かに解散をしなければ、総辞職しかないことになるが、その選択が可能かと言うことだ。戦後史をひもとけば、不信任案可決で総辞職をしたケースはない。吉田茂は2度可決されたが、いずれも解散。大平正芳も宮沢喜一も解散を選択している。森と小泉純一郎は不信任案が本会議上程後の趣旨説明前に解散を断行しているから、不信任案は「未決」のままだ。羽田のように不信任案が上程される前に総辞職したケースはあるが、これも言うまでもなく「未決」だ。憲政には常道というものがある。一国の首相が国権の最高機関から不信任案を突きつけられて、なお未練がましく政権党にバトンタッチしようとするということは、あり得ないし、あってはならないことだ。渡部は「総辞職したら民主、自民で大連立を組めばいい」と“大風呂敷”を広げるるが、蟻地獄へ落ちつつある政権に手をさしのべる野党があるわけがない。さすがに野田も、参院本会議で「(総辞職は)内閣総理大臣としての責任を放棄するものだ」と否定した。あと6人が民主党を離党すれば、不信任案が可決されうる状況に到るが、その場合は解散だ。

 それでは不信任案と関係なしに総辞職があり得るかというと、これは全くあり得ない話ではない。総辞職して国家戦略相・前原誠司か政調会長・細野豪に代えるというものだ。たしかに「嘘つき首相」のイメージが定着した野田よりは、総選挙向きの顔としてはいいし、民主党幹部の中には代表交代論があるのも確かだ。しかしこれも悪あがきの最たるものでしかない。そもそも民主党幹部は、今民主党が問われている問題を分かっていない。3年間にわたる稚拙な政権運営と国民を欺く公約違反を繰り返してきた政権の本質を問われているのであって、「顔」の是非が問われているのではない。賞味期限切れの生牡蠣をポリ容器を変えてまた売るようなことは、通用しないし、これほど国民を馬鹿にした話はない。「うそつき解散」はかつて宮沢がやったことだが「うそつき総辞職」は聞いたことがない。「顔」を代えても、野党の解散攻勢は変わらない。通常国会は冒頭から動かない。国民の生活第一代表の小沢一郎も11月4日のNHKで「野田さんは今政権を投げ出すべきではないと思っているように見える。景気対策もあるから総辞職は考えていない」と分析している。民主党は地獄で悪あがきをしても、もう蜘蛛の糸は垂れて来ないのだ。さっさと諦めて、野田のようにやけ酒でも飲んで、解散に踏み切るしか手はないことを悟るべきだ。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム