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2012-10-21 00:28

北原二郎氏の「この際日本はその対中戦略を再構築せよ」へのコメント

杉山 敏夫  団体職員
 10月14~16日の本欄への北原二郎氏の連載投稿「この際日本はその対中戦略を再構築せよ」を興味深く拝読した。筆者は、同氏の議論については、部分的に賛成だが、その一方で、賛成しかねる幾つかの論点もあった。コメントさせて頂くことで、議論の更なる検討を期待したい。

 まず、賛成できるのは「広報外交」の重要性についてである。もっともこの点は、様々な媒体(学術雑誌関係を含む)でも頻繁に指摘されており、特に目新しいことではない。しかし、中国在住者としての立場から、間近で中国の政治・外交さらには世論の動向を観察している北原氏ならではの指摘としては、重みがある。また「言論戦」「国際司法裁判所の活用」「日米安保体制の強化」の進捗状況にも拠るとしつつ、「(尖閣諸島に)自衛隊の駐留・米軍との共同管理のレーダー設置・船だまりの建設を進める」ことについても、筆者は賛成である。

 他方、「外務省が『領土問題は存在しない』との立場に固執して、自らの立場を訴え続ける」ことの是非については、それを「非」とする北原氏の議論に賛成しかねる。そして、なぜこれがわが国の「国益」を損ねることになるのか、分からない。「時が熟せば、中国は琉球を回収する権利を有する(北原氏の例示より)」との内容を含むビラを平気で撒く中国に対して、「領土問題は存在する」とした上で、中国との「対話」に応じる、あるいは「国際司法裁判所」を通した解決を図ることが、如何なる意味を持つのか。それは日本側の「妥協」であり、国を守ることではない。中国の圧力に屈したとの「前例」を作ること、さらにはそれが「評判」となって国際社会に伝わることこそ、わが国の国益にとって大きな損失ではなかろうか。仮に20年後、30年後、中国が沖縄の領有権を本気で求めてきた場合(あってはならないが、そう仮定してみる)、わが国は同じように中国との対話あるいは国際司法裁判所での解決を図るのか。

 北原氏はまた、わが国外務省が「領土問題は存在しない」との立場に固執することは、「中国に軍事力増強の時間的猶予を与える結果になってしまう」と指摘するが、これは論理の飛躍である。中国の軍事力増強は、わが国外務省の言説如何に関係なく、これまでも増強し続けてきたし、今後もそうであろう。問題は、中国による軍備増強と拡張主義的な外交戦略に対して、如何にわが国が日米同盟を強化しつつも、国際的な協力・連携関係の深化に努め、中国に対抗していくかである。北原氏とは方向性は違うが、「広報外交」の一部はこのために積極的に用いられるべきである。
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