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2012-10-16 10:04

(連載)この際日本はその対中戦略を再構築せよ(3)

北原 二郎  会社員
 国際環境とパワーバランスが大きく変化した時、現状維持を貫くことはできない。例えば、1971年に米ソ対立・中ソ対立の中で生まれたアルバニア決議によって中華民国(台湾)は国連の座を失い、代わって中華人民共和国が国連に加盟、しかも常任理事国入りを果たした。これはアメリカの対ソ戦略上、中華人民共和国を取り込む必要性(米中接近)から生まれた結果である。パワーバランスと大国の世界戦略に左右される。これも国際社会の現実である。ゆえに「尖閣問題は時間との勝負」であり、西太平洋における日米の軍事的優位が揺らぐ前に、日中二国間の外交問題から国際司法裁判所をはじめとする国際社会の関与しうるテーブルに中国を引き込み、国際法秩序のなかで解決することが急務なのである。

 日本の民主党政権下において日米同盟はかつて無い危機的状態に陥っている。沖縄においては、普天間基地移転やオスプレイ沖縄配備等を巡って反対運動が盛り上がっている。オスプレイの沖縄配備を巡る反対運動については、中国のマスコミもこれを大きく取り上げている。中国の警戒心の表れであると共に、1992年に米軍基地を撤退させたフィリピンと同様の変化が沖縄でも起こることを期待しているかのようである。ご存じの通り、フィリピンでは米軍撤退により抑止力を欠いた直後の1995年、近海のスプラトリー諸島のミスチーフ礁が中国に占拠されるに至った。国家の安全保障の上で、米軍の抑止力の意味を再確認する必要があるのである。

 なお、先月の中国における反日デモの際、デモ隊が配布したビラが、一枚私の手元に残っている。表面は尖閣諸島を中国領と主張する内容であるが、何と裏面には「時期成熟時中国有権収回琉球群島」(時が熟せば、中国は琉球を回収する権利を有する)と太字で書かれている。さらに次のように解説している。「琉球は明の時代からの中国の冊赴国である。1879年に日本によって侵略され併呑された。よって本来は中国に属する」と。地政学的に中国の太平洋進出に対する防波堤となっているのが沖縄及び先島諸島である。小さな離島であっても、尖閣諸島が安全保障上占める位置は実に大きい。一枚のビラからも、尖閣問題での対応を過つことの危険性は十分に読み取れる。沖縄県民の負担には十分な配慮が必要であるが、同時に日米安保体制の強化の必要性についても、全国民的コンセンサスを得る必要がある。

 以上、「実効支配」「言論戦」「国際司法裁判所の活用」「日米安保体制の強化」を4つの柱として、尖閣問題について考えてみた。「領土問題は存在せず」として問題の解決を放置していては、かえって国益を損ねる結果となりうる。NHKのテレビドラマ『坂の上の雲』をご覧になった方も多いと思う。そこに描かれた明治期の日本は、欧米列強や清国に対し、類まれなる嗅覚と鋭敏な政治感覚、さらには臨機応変な柔軟さを持って対応し、日本を「アジアの一等国」へと押し上げて行った。それから百年あまりを経て、いまや中国やインドといった新興国が勃興しつつあり、国際社会は新たな変動期に入りつつある。今後の国際社会の中で日本は自国をどう位置付けるべきか。それが問われている。(おわり)
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