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2012-09-28 06:47

火ぶたを切った日中の“宣伝・広報戦”

杉浦 正章  政治評論家
 中国のことわざに「賊喊捉賊(とうかんそくぞく)」がある。日本では「盗っ人猛々しい」しか相当する言葉がないが、その実際の意味は、狡猾さと大胆さにおいて日本のことわざの比ではない。なんと泥棒が逃げながら『泥棒を捕まえろ!』と叫ぶのだ。英訳では「A thief shouts, \\\"Theft!\\\"」となる。自分の悪事を誤魔化す為に、泥棒が他人を泥棒呼ばわりすることが真の意味だ。首相・野田佳彦の国連演説に対する中国外務省報道局長・秦剛の発言がまさにこのことわざを地で行くものであった。尖閣問題は国家間において近来まれに見るプロパガンダ戦の色彩を濃厚にし始めた。情報戦、心理戦、宣伝戦、世論戦を総合した戦いが各地で展開され始めている。国際社会の支持を日中どちらが取り付けるかの戦いである。なっていないのは、日本の国連代表部だ。首相演説があるというのに、出席した各国代表はぱらぱら。昔は動員をかけて、大平正芳の演説などは満席であった。何のために巨額の金を途上国援助に使っているのかと言いたい。そのぱらぱらの中ではあったが、野田の演説は久しぶりに首肯出来るものであった。「領土、領海を守ることは、国家としての当然の責務であり、日本も国際法にのっとって責務を果たしていく」と激しい調子で日本の主権を守る決意を表明。「みずからの主義主張を、一方的な力や威嚇を用いて実現しようとする試みは、国連憲章の基本的精神に合致せず、人類の英知に反する」と、中韓両国を公然と非難した。

 羊が虎のように吠えて、びっくりしたのが中国側。秦剛は直ちに声明を出し「歴史の事実と国際法をかえりみず、公然とほかの国の主権を侵犯することは、第2次世界大戦後の国際秩序に対する重大な挑戦であり、国際法のルールを持ち出すと見せかけながら、人をだまそうとするものだ」「国際法を表に出して欺こうとしている」と反論した。まるで「戦争に負けた国が何を言うか」「法律なんか、くそ食らえ」と言わんばかりの内容であった。外交上も常軌を逸した反応であり、逆にいかに中国外交部が狼狽したかを物語る。笑止千万なのは歴史上の事実認識の誤りだ。戦勝国は尖閣の帰属を日本と決めている。「第2次大戦後の国際秩序」であるサンフランシスコ平和条約第2条で尖閣諸島は日本が放棄した領土には含まれていない。尖閣諸島は,同条約第3条に基づいて,南西諸島の一部としてアメリカ合衆国の施政下に置かれ,1971年の沖縄返還協定によって日本に施政権が返還された地域に含まれている。何等異議を唱えなかった中国こそ、その後に存在が確認された石油欲しさに世界を欺こうとしているのだ。まさに「賊喊捉賊」そのものなのだ。秦剛は勉強不足を“理路整然”と世界に露呈した。官房長官・藤村修から「的外れ」と反論されてしまうのも無理はない。これらが口火になるのだろう。9月28日は中韓両国外相が国連で演説するが、噛みついてくることは間違いない。野田は国連でモンゴルやインドネシアなど中国周辺国首脳と会談、外相・玄葉光一郎も同様にプロパガンダ戦に参入した。玄葉は「これまで領有権の問題は存在しないということから、我々の立場を国際的にPRすることを控えてきたが、方針を転換した方がいいと言うことで指示した」と発言、方針転換で宣伝戦に参入することを明言している。中国は国際社会での評判を極端に気にする傾向があり、この戦術はかなり効き目があるだろう。

 中国側は、欧米の報道を見ると、何も知らない不勉強な北京特派員に“すり込み教育”をしている。その核心部分は「尖閣諸島は台湾の付属島嶼であり、尖閣諸島は日本が日清戦争を通じて掠め取ったもので、台湾を解放し、尖閣諸島を(台湾の付属島嶼として)回復する」というところにあるようだ。利口なようでピントの狂った特派員の多いニューヨーク・タイムズ紙がまずこれに乗って、「日清戦争で日本が取った」と言う内容の記事を掲載した。ついでロサンゼルス・タイムズ紙も「19世紀後半までは尖閣諸島の領有に関し中国側が最も強く主張していた」「尖閣をめぐる領土問題が1世紀以上も争われてきた」などと報道した。さすがに在ロサンゼルス日本総領事館も問題視し、総領事・新美潤は「日本の主張する歴史的事実も踏まえた取材をしてほしい」と申し入れた。ワシントン・タイムズ紙にも大使館参事官の安藤俊英が「日本政府は1885年以降、再三にわたり現地調査を行い、単にこれが無人島であるのみならず、清国の支配が及んでいる痕跡がないことを確認した上で、1895年1月に閣議決定を行い、正式に日本の領土に編入した。日清戦争を終結させた下関条約(1895年5月発効)と尖閣諸島の領有は無関係である」とする投書を掲載させた。

 このように中国側のプロパガンダに対する反論は、世界各地の大使館や総領事館で行われているが、いささか押され気味である。事実関係を指摘されるのが特派員の一番痛いところであり、“与太記事”を載せる新聞社にはどんどん申し入れをして、注意を促すべきだろう。そのうちに更迭される。東京の特派員は、北京よりももっとレベルが低いケースが多いから、これらに対する広報が重要なことはいうまでもない。一から教えてやる必要がある。こうして日中両国は国の威信をかけた広報戦に突入した。日本が尖閣問題を国際的論争の場に持ち込んで、国際世論を形成すれば、中国側の暴発の思惑を未然に食い止めることになる。ハーバード大学教授ジョゼフ・ナイがニューヨーク・タイムズ紙に「東アジア諸国は今こそ,チャーチルの『戦争よりは長談義の方がずっといい』との名言を肝に銘じるべきだ」との一文を載せているが、もっともだ。論戦はいくら続けてもよい。むしろ長期論戦に持ち込むべきだ。筆者が当初から言っているように、世界の一流紙に一面ぶち抜きの広告も掲載すべきだ。官邸機密費はこういうことに使うべきだ。ナイは「 望むらくは、中国が尖閣諸島(釣魚島)に船を送るのを止め、日本政府との間のホットラインを活用し、2008年のガス田開発を巡る合意に立ち返るべきである」とも提案している。落としどころの一つかも知れない。
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