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2012-09-14 06:41

「原発ゼロ」は野田の大誤算、メディアは踊らず

杉浦 正章  政治評論家
 誰が見ても支離滅裂な新エネルギー政策だ。2030年代に「原発ゼロ」を唱えながら、「重要電源」だという。ゼロなら当然必要ない核燃料サイクルも継続だ。なぜこのような矛盾撞着する案を作ったかというと、ひとえに総選挙対策の大衆迎合路線だからである。エネルギー戦略を一政党の選挙対策に直結させるという、売国の“禁じ手”を政府が使ったのだ。しかしその効果はあるかというと、逆目に出た。選挙に最大の影響力を持つ民放テレビが、「選挙対策だ」と批判の矛先を首相・野田佳彦に向け始めた。心ある新聞も、批判の論調だ。野田は「普天間の鳩山由紀夫」「福島事故の菅直人」に勝るとも劣らない大失政を、こともあろうに国家の死活に関わるエネルギー問題で確信犯的に断行したのだ。政府がリークしている原案は「2030年代に原発稼働ゼロが可能となるようあらゆる政策資源を投入する」として、(1)40年運転制限、(2)原子力規制委員会の安全確認を得て再稼働、(3)新・増設はしない、の原発3原則を盛り込んでいる。

 しかし同時に、当面は安全を確認した原発を「重要電源として活用する」と明記し、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」も「研究炉」として維持し、青森県の核燃料サイクルも継続だ。だれがみても相互に相容れない路線が政府案の中で激突させている。まるで“股裂き”方針だ。福島の原発事故を最大限利用して選挙対策を展開したいあまりに、「原発ゼロ」の文字だけを活用しようとしているのだ。原発と事故は、これまで筆者が度々証明してきたように、全く別のものとして判断すべきにもかかわらずだ。問題は、この大衆迎合政治に対するメデイアの反応だが、野田の狙いとは全く逆目に出た。民放がどう見るかは、新聞の社説などより格段に影響力があるので分析する価値がある。「ゼロ」に向けてまい進する朝日新聞傘下のテレビ朝日の情報処理を分析すると、新聞とは逆に、一貫して政策の矛盾を突いている。9月13日朝の「やじうまテレビ」では、カンニング竹山なるお笑い芸人を使って批判させている。竹山は「ゼロと言うかと思うと、動かすとも言っている。政権が代わるかも知れないのに、今それを言われてもどうか。簡単に決められない」と述べた。この傾向は、夜の「報道ステーション」にも続き、朝日新聞の論説委員・三浦俊章に「これは民意を恐れて、来たるべき総選挙を考えた付け焼き刃的なものだ。野田首相は、どうもその場限りの雄弁の傾向が見える」と発言させた。確かにここまで来ると野田の“雄弁”も鼻につく。

 要するに、民放テレビですら野田の意図を看破しているのだ。これは「原発ゼロなら選挙の劣勢を覆せる」と浅はかにも考えた野田政権の意図とは逆行するものに他ならない。新聞の世論調査も逆目に出ている。日経の電子版読者に対する世論調査では、政府の原発ゼロ方針を「評価しない」が75.1%、それに伴う光熱費倍増を「容認できない」が81.4%に達したのだ。財界の反応も、怒り心頭に発していることがよく分かる。経団連会長・米倉弘昌は野田に電話をかけて何と「これ以上アンチビジネス的な対応はやめてもらいたい」と申し入れたのだ。まるで民主党政権が極左政権でもあるような物言いだが、無理もない。極左が跋扈し(ばっこ)ているのだ。財界首脳は「もう民主党には一切の政治資金援助をしない。原発ゼロ推進の新聞には広告も出さない」と憤っている。それはそうだろう。エネルギー問題は日本経済の死活に関わる問題として登場してきており、財界としてはこの際民主党政権を代えるしかないと考えているのだ。また朝日、毎日、東京など「原発ゼロ」をあおり立てる新聞には広告掲載拒否で報復しても当然だ。

 こうした中で、自民党も洞ヶ峠を極め込んではいられなくなっている。総裁選有力候補の幹事長・石原伸晃は13日朝のテレビで「工程表も明示しないまま、ゼロの日程を決めるのは無責任だ。新エネルギーと言っても10年20年かけて見極めなければ分からない」と真っ向から批判した。日本と原発で関わりの深い米、英、仏3か国は一様に懸念を表明している。米エネルギー省副長官のポネマは訪米中の政調会長・前原誠司に「重要かつ深い影響を米国にもたらす」と警告した。米戦略国際問題研究所(CSIS)所長のジョン・ハムレは日経への寄稿文の中で「日本のようにエネルギーに乏しい国家にとって、原発を放棄し、中国が世界最大の原子力国家になったら、日本は核不拡散に関する世界最高峰の技術能力も失う」「福島原発での災難は、日本政府にとって屈辱的なものだった。だからといって、これから進むべき道が原子力を放棄してよいわけではない。熟慮を重ねた考察に基づけば、日本が原子力国家であり続けなければならないことはわかるはずだ。それは国家として日本が担う責務でもある」と述べた。まさに友情ある説得だ。世界の常識は野田政権の非常識なのだ。ここまで来たら、一刻も早く相次ぐ大失政政権の退場を実現するしかない。 
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