国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2012-08-20 21:00

メディアが中国最高指導者に日本で尖閣問題を語らせたこと

山田 禎介  国際問題ジャーナリスト
 民主政権の一連の尖閣問題の対処に、野党の自民党から批判が続く。でも言葉は悪いが、「あんたには言われたくないね」という気持ちにもなる。長年の消極・不作為政策から続く、今日の状況の生みの親こそ、他ならぬ自民党ではなかったかと。ところで1971年ごろから中国、台湾が領有権の主張を本格化しているのは、尖閣に天然ガス・原油の埋蔵が確認されたからというのは周知の事実。だがさらに、いまにして思えば、日本メディア側による余りにナイーブな、現実の国際社会を見ない軽率な言動がなされたことも、今日の日本の軸足を揺るがせる遠因になったものと思う。

 それは、1978年の鄧小平中国副首相来日の会見で、記者代表が「(われわれは)尖閣列島=当時=を日本固有の領土という立場にあるが、トラブルが中国との間に生じて大変遺憾に思う。この問題をどうお考えになるか」と質問したこと。当時、中国の最高指導者でもあった鄧小平氏は「双方に食い違った見方がある。中日国交正常化の際も、双方はこの問題に触れないことを約束した。今回、中日平和友好条約を交渉した際もやはり、この問題に触れないことで一致した。中国人の知恵からもこういう方法しか考え出せない」とニッコリ笑ったのだ。

 鄧小平氏会見の質問事項について、日本記者クラブ側と中国側には当然、事前のやり取りがあったはずだ。伝統的な「中国の交渉術」では当然、日本側に「どうぞ尖閣問題を質問してください」とささやく。メディアの先輩方には非礼を承知で言うが、それに乗ったのであれば「中国の術中にハマッタ」のだ。また結果的には「相手に水を向ける愚」、あるいは「 ヤブを突いてヘビ~~」のたぐいの行動でもあった。ほかならぬ東京で、中国最高指導者が問われたことに答えたのが日中間の領土問題。これにより一気に「尖閣棚上げ」が脚光を浴びたのだから。

 また尖閣問題は、2010年に自民党側が質問主意書を出し、それに民主党政府が「鄧小平氏が日中国交正常化の際、双方はこれに触れないと約束した」と述べたことについて、「(そのような)約束は存在しない」と答弁書で否定した。一方、72年の日中首脳会談については、周恩来首相が田中角栄首相に「尖閣問題については、今回は話したくない。石油が出るから問題になった。石油が出なければ、台湾も米国も問題にしない」と表明したことも、この答弁書で(補足的に)明らかにしている。

 「鄧小平氏の言った『尖閣問題の約束』は存在しない」とした民主党政府だが、この否定は、国際ルールに基づく「コメント拒否」が実態だろう。それは秘密協定なるものは、問われた場合、「存在しない」と公式に否定するのが近代国際政治の現場で踏襲された”約束”だからだ。同様のケースとしては、西山事件で焦点となった「沖縄返還日米密約」がある。歴代自民党政府の外相は国会の場において、密約の存在を否定してきたが、現在は密約の存在が白日のもとにさらされた。鄧小平氏の言った尖閣問題に関する日中間の約束は、現状では「ヤブの中」。でも、その真相はいずれ、われら国民の英知と努力で解明されるものと確信する。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム