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2012-08-19 16:35

領土問題は、国際司法裁判所提訴より実効支配強化を急げ

松井 啓  元駐カザフスタン大使
 8月2日の拙投稿では尖閣諸島の実効支配を早急に確立せよと提言したところであるが、そのあと韓国までが竹島で新手を打ち出してきた。相手の弱みにつけ込むのが国際政治の常識である。日本は北方領土と竹島及び尖閣諸島という3つの領土問題を抱えており、いずれも我が国固有の領土と主張してきているが、3つのうち北方領土はロシアに、また、竹島は韓国に実効支配されたままになっている。尖閣諸島に関しては、日本の固有の領土であり、辛うじて実効支配してきているのであるから、それが民有地、都有地、国有地のいずれであるかは、日本の国内問題であり、中国が所有権の移転に口出しする権利は全くない。また、そこに如何なる建造物を建てるかにつき、中国の「ご意向」を忖度する必要も全くない。日本は早急に実効支配を確立し、独立国として自国の領土保全を確固にすべきだある。

 韓国、中国は、現在ともに政権交代期を迎えている。特に韓国では、大統領が、弱体化した政治基盤強化のための個人的な思惑によりナショナリズムを煽っている。今後どう収めるか憂いている識者もいる。ロシアではプーチン政権が返り咲き、APECのウラジオストク会議のために巨額の投資をしたが、これによって外国資本が急増する見通しはなく、極東開発の目論見はゴーストタウンに埋もれてしまう恐れがある。強権的な政治・経済運営に対する国民の抗議活動も活発化している。他方、アメリカは大統領選挙までは国際関係で荒波が立つことを恐れているので、積極的な仲介には出てこないだろう。肝心の日本も、現在は長期的大局的視野に基づいた外交方針や対策を打出す余裕はないので、国内政治状況が落ちつくまでは、ポピュリズムに傾斜した、その場限りの無責任な措置を取る恐れもある。従って、これから半年間は中国、韓国及びロシアに対しては、彼等の過激な言動は無視して、取り合わないのが賢明である。他方、こちらからは軽挙妄動して相手につけ込まれないよう、また将来に禍根を残さないよう、細心の注意を払い、双方が冷静な判断を下せるまでは、沈着に好機を待つ姿勢に徹底すべきであろう。

 この観点から言えば、国際司法裁判所に提訴するとの方針は、勇み足の感を免れない。裁判所は法律家の集まりであり、関係当事国が提訴に同意しても、数年にわたる審議の過程では流動的な国際政治状況(特にアフリカにおける資源開発、民族、部族関係の変化等)を判断に入れないので、当事国の力関係の変化により最終的判決通りに解決されない例もある。「夫婦喧嘩は犬でも食わぬ」というが、近隣国でない限り、他国間の領土問題にはできるだけ巻き込まれないようにするのが国際社会の常識である。かつて日本は、北方領土問題を国連やG7の場で議題として取り上げようと努力したが、結果としては何らの成果を生まなかったと記憶している。従って、国際司法裁判所への提訴は、国際世論に訴える効果には期待しえないが、何らかの措置を講じているとの国内的アリバイ作りには有効であろう。

 しかしながら、その間にも日本だけで取っておくべき手段がある。尖閣諸島を長期にわたって曲がりなりにも実効支配しているということは動かしがたい現実であるので、まず尖閣諸島を含めた離島の防衛能力の向上、領海の巡視体制の強化や漁業資源の保護に具体的に着手すべきである。日米安保条約に頼ったり、逆に気兼ねしたりせず、日本が独力でも支配し、守り抜く気概と実力を示すべきである。そのためには早急に尖閣諸島に船着き場を作り、監視所を設立し、常駐の駐在員を置いて実効支配していることを鮮明にし、再度の不法侵入の可能性(今回は1隻14名であったが、このままでは30隻あるいは300隻となることもありえよう)を断ち切ることが必要である。大陸では「国境は夜動く」と言われている。尖閣諸島では夜陰に乗じて「漁船」集団が襲来しないよう監視塔を建て、目もくらむような探照灯を設置する等の打つべき手段は多々ある。以上のことは南鳥島についても同様である。早急に船の停泊所やそれに隣接して観測所を作り、これが(中国の主張する)「岩礁」ではなく「島」であることを確立すべきである。領土保全に金を惜しむべきではない。問題を先送りして後の祭りとならないよう、早急に行動を起こして欲しい。
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