国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2012-08-17 07:52

香港住民による尖閣上陸行為への対処策

吉田 重信  日中関係研究所主宰
 今回の香港関係者による尖閣上陸行為は、過去に発生した前例の繰り返しにすぎず、むしろ中国政府や台湾当局側が自粛した対応を示してしていることに鑑み、日本側も慎重に対処すべきである。すなわち、香港の保釣行動委員会関係者による今回の尖閣上陸行為は、2004年、自民党小泉政権当時にも発生したが、その際日本側当局は彼ら関係者を2日間勾留しただけで強制送還したのである。しかも今回の事件の特徴には、台湾当局が参加することを回避したほか、上陸者一行には中華人民共和国の国民が一人も含まれていないことである。したがって、日本当局としては前例どおり香港の保釣行動委関係者を強制送還する措置が適当であり、それ以上に日本の司法手続きを進めるなどエスカレーする必要はないと考える。現野田政権による迅速なる対応は、二年前、中国漁船衝突事件が発生した際の菅政権による首尾一致しないもたもたした処理ぶりに比較して高く評価される。

 この事件に関連して注目すべきは、米政府当局が日米安保条約5条の共同防衛条項の適用はせず、中立的立場を明らかにしたうえで、問題を日中間で平和的に解決することを求めたことである。換言すれば、たとえ尖閣問題をめぐって日中間に軍事衝突が起こっても、米国は日本を支援しないということだ。また、米国政府の立場の表明は、日本政府は韓国側が実効支配する竹島領土問題について国際司法裁判所による判断を求めるのであれば、日本側が実効支配する尖閣領土問題についても、同じように国際司法裁判所による判断を求めるべきあるとの含意(implications)を含んでいる。

 もとより紛争を平和的に解決することは国連憲章第一条や日中平和友好条約第一条にもそれぞれ謳われているので、日中両国政府は尖閣領土問題を平和的に解決する国際法上の義務がある。これまで日本政府は、「尖閣問題は領土問題ではない」と強弁してきたが、中国政府と台湾当局がこれに反する主張をしている以上、日本政府は中国側の主張を認めて話し合いでの解決に応じるほかないと考える。

 つまり、日本政府は、その同盟国である米国政府の意向に従って尖閣領土問題の平和的解決に努めれば、日米安保条約の前文が謳う「極東の平和と安全の維持」の趣旨に合致すると考えられる。いずれにしても、尖閣領土問題を放置することは、大局的にみて日中米三国の利益に合致しないことは明らかであるので、平和的解決へ向けての日本政府による格段の努力が期待される。日本政府は、北方四島問題、竹島問題、尖閣問題といういわば「三重苦」を抱えているので、少なくともその一つなりともを解決して、負担を軽減するべきである。世論に流されて、強硬策一本やりの考え方では、ますます困難に陥るだけである。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム