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2012-08-15 22:15

駐中国大使の言動が公開の場で議論の対象となるのは、当然のこと

山田 禎介  国際問題ジャーナリスト
 記者時代、何人もの日本大使と駐在地での付き合いがあったし、海外取材で飛び込んだ現地で、駐在する日本大使に無理をお願いしたこともある。それらの大使には、おもしろくない人物もいたし、大使退官後のいまも付き合いのある人もいる。日本の大使について十二分に知る経験をしただけに、一連の丹羽中国大使のユニークな言動には「オヤオヤ」と、思うしかない。

 英紙『フィナンシャル・タイムズ』についても、米紙『USA TODAY』ワシントン本社編集局に駐在した経験で言えば、かれら大西洋同盟族が、日中紛争醸成を結果的に生んだことになる。今流でいえば「どや顔」だと思う。英国も「一国二制度」の香港を注視、中国とは持ちつ持たれつだ。実は「報道の自由」と言いつつも、歴史上国益のためには何度も自国政府と協同歩調を取ってきたのが、アングロ・サクソン流メディアだ。ルーズベルトとマスコミの蜜月に始まり、米政府情報としてフィリピンの「マルコス大統領はあと半年の命」とやったのが、米一流紙。だが、マルコスがその二年後か、その米国の手でハワイに亡命させられたのを現場で見たし、ハワイで亡くなったのは、さらに後だった。

 ところで、丹羽中国大使について「辞任するか否かは、大使ご自身が決めるべき出処進退の問題」、また「メディアで公表することは、大使に対する尊敬を欠く行為では」との、元大使・吉田重信氏のご指摘があるが、およそ「特命全権大使」の言動は、本国、本省の指示、指令、承認に基づくべきであり、個人的友情と善意は、国益の前では捨てねばならぬ。また、公務員、それも上級者である以上、焦点となった行為が公開の場での国民論議に向うのは当然だろう。

 それよりも何よりも、今回もまた感服するのは、長い歴史と伝統を持つ中国の外交術である。かつて筆者は、米国の対中国交回復に至る、中央情報局(CIA)/ランド研究所の報告書『Chinese Negotiations』(邦題『中国人の交渉術』、文芸春秋刊)の翻訳に参画したことがあるが、その過程で驚嘆したのは、四千年の歴史に蓄積された硬軟併せ持つ巧みな中国の外交術であり、また、それに「取り込まれてはならぬ」と警戒・対抗するアングロ・サクソンの実務的知恵だった。日中関係のキーワードを「漢字」と「一衣帯水」にまず置く日本とは対照的に、中国を実に長く深く客観的に探ってきたのが米国だ。米国の日本研究者の多くは、数多い本来の中国研究グループから枝分かれした一部であることも忘れてはなるまい。

 また、半分は歴史的伝説になっている話だが、かつて日中国交正常化交渉の席で、外務省の高嶋益郎条約局長(のち最高裁判事)が、日華平和条約(日台条約)の取扱いについて、最後まで中国側に食い下がって譲らなかった。周恩来国務院総理(首相)は、その場では高嶋氏を「法匪」(いたずらに法を操る者)と罵倒しつつも、その後の調印祝賀パーティーの席では「中国にも、あのような(骨のある)外交官がほしい」と日本高官に言ったという。重要なことは、中国は「親中人士」を重視し、大事にはするが、その人物を尊敬するかどうかは別次元だということである。中国高官がよく使う「井戸を掘った人を忘れない」という伝統のことわざも意味深だ。日本国際フォーラムの主旨の一つである「意見交換の場を通じて、相互啓発とより高い次元への議論の発展を図りたい」との思いを胸に、記してみた。
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