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2006-10-20 14:37

なぜ日本人は戦略的思考ができないのか

伊藤憲一  日本国際フォーラム理事長
 本日付けの田久保忠衛氏の投稿「非合理な核研究不要論」に同感である。私自身は日本の核武装と日米同盟は二者択一であると考えている。だから、現段階において日本に核武装の現実的選択肢があるとは思っていない。しかし、それにしても、だからと言って、己の主張を通すために、核武装論者の口を封じたいとは思わない。それではコペルニクスの口を封じて天動説を守ろうとした中世ローマ・カトリック教会と選ぶところがないではないか。そこからは真理の探究も正義の実現も期待はできない。核武装論者と非核武装論者の議論をつうじて、初めて真の日本の国益の所在が明らかにされる。この時期や他国の懸念を理由にして、議論を封殺しようとする者がいるが、時期や他国の懸念は枝葉の口実であって、根本の大義ではない。

 中川自民党政調会長や麻生外相の「核の議論は必要」発言に対して、バッシングとも言える反応を示した日本社会、とくにそのジャーナリズムの現状を見て、私は「なぜ日本人は戦略的思考ができないのか」と、暗澹たる気持ちになっている。そもそも戦略的思考とは、"To think unthinkable"(考えられないことを考えること)だと言われる。少なくとも専門家やその助言を受ける政治家は、つねに「考えられないこと」を考えていなければならない。その場合、タブーを設けないことが必須である。キッシンジャーは "Never say never!"(絶対にということは、絶対に言うな)と言った。日本の専門家や政治家は国民の負託に応えていると、胸を張って言えるのか。

 日本人は戦前の全体主義的・軍国主義的雰囲気のなかで自らの自由な戦略的思考を封殺した。「日米戦えば、どうなるのか」というもっとも基本的な問題さえ、あるいはそれがもっとも基本的な問題であったがゆえにこそ、自由な議論は封殺された。ミッドウェイ、ガダルカナル、硫黄島の敗北や、広島、長崎への原爆投下という「考えられないこと」を考えることを封殺した。その結果が、真珠湾攻撃という破滅的選択ではなかったのか。日本人はまだ昭和史の教訓、それももっとも重大な教訓、つまり日本人における戦略的思考の欠落という教訓を学びきっていない。
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