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2012-07-26 06:59

野田は原発で火中のクリを拾った

杉浦 正章  政治評論家
 心地よい駆動音を立てて大飯原発4号機がフル稼働の段階に入った。我が国のエネルギー危機はようやくその袋小路から脱する光明が見え始めた。国内に異論を残すが、大勢は、小異を残して大同につく。もうこの流れが逆行することはなく、時代は火力、水力、原子力を主軸としたベストミックスの時代に移行する。これに自然エネルギーが加わるかどうかは、将来の課題だ。原発再稼働は民主党政権がもたらした最大のエネルギー危機であったが、首相・野田佳彦の愚直なまでの信念が崖っぷちで「エネルギー・パニック」を食い止めた。マスコミも原発再稼働で真っ二つに割れたが、朝日新聞を始め、無知をさらして吠えまくったみのもんたのTBSなど、民放テレビの反対派は、60年安保における敗退と同じ脱力感があるに違いない。報道の偏向という意味で反省すべき段階に入ったと言える。関西電力社長の八木誠は、今売り出しの大阪市長・橋下徹など歯牙にもかけないサムライであった。“次の再稼働”について7月25日「高浜3、4号機が最有力」と明言。 時期については「国にはできるだけ審査を早くしてもらいたい」と述べた。注目すべきは「電力需給ではなく、わが国のエネルギー・セキュリティーを考え、安全性を確認できたプラントはできるだけ早く動かしていきたい」と強調した点だ。

 これは原発再稼働を単なる停電対策ではなく、日本のエネルギー安保全体を考える立場から行うという観点だ。電力会社存立の原点となる思想を堂々と表明したものといえ、注目に値する発言だ。ここに来て電力会社の“巻き返し”が目立つ。政府の公聴会で中電の課長は「個人として意見を述べたい」とした上で、「福島原発事故では放射能の直接的な影響で死亡した人はいない。5年、10年たっても状況は変わらない」と発言した。確かに推定10万人が死亡した核爆発のチェルノブイリとは根本的に異なる。マスコミ主導の反原発機運が覆う中で勇気ある発言だ。「電気を潤沢に使えないことで実現しない未来もある」と述べた社員もいる。一連の発言は国家経済の中枢をになう電力会社に、その“気概”が戻ったものと見るべきであろう。気概をなくした国家に将来はない。それにつけても、ここまで原発問題をこじらしたのはすべてが、繰り返すがすべてが、前首相・菅直人の責任に帰する問題だ。たかが東工大で“かじった”くらいの知識で、国の原子力政策を根底から覆そうとしたのである。菅は原子力政策の根幹を揺るがす三つの誤判断を犯した。

 まず発端は浜岡原発停止だ。福島原発事故への恐怖感を煽って、何の法的根拠もないままに、事実上の命令を発してストップさせた。これがやみくもなる原発反対ムードに火をつけた。次にいったん経産相・海江田万里が保証した九州電力玄海原発の再稼働“阻止”だ。菅は「ストレス・テスト」を持ち出して、ストップをかけたのだ。これに加えて菅は、自然エネルギーで一儲けしようとしたソフトバンク社長・孫正義とつるんで、「自然エネルギー活用幻想」を国中にばらまいた。しかし、1年たっても、自然エネルギーが原子力に取って代わり得るめどなど立っていない。依然全体の1%以下でしかないのだ。自然エネルギーなどに過度の期待を繋いだら、日本は亡国の道をたどるしかなかったのだ。菅政治の1年は、一市民運動家レベルの政治屋に国の政治を任すとどうなるかが、恐ろしいほど分かった1年であった。野田の“平衡感覚”は、消費増税法案へのぶれない姿勢と共に、原子力政策でも発揮された。崖っぷちまで行った反原発の流れにさおさして、巻き返しに成功したのだ。

 閣内には確信犯的に反原発の経産相・枝野幸男がいる。枝野は前述の八木発言をろくろく確かめもしないで「大変不快な発言であるというのが印象だ」とまでこき下ろした。しかし、枝野の常習犯的反原発発言はもう相手にされなくなってきた。枝野は、政治的には原発発言で力量の限界を見せた。国家をになう人材ではない。野田は党に獅子身中の虫の幹事長・輿石東、内閣に枝野を抱えて、よくかじ取りができていると思うほどだ。野田は国連で「日本は原発の安全性を世界最高水準に高める」と演説、原子炉輸出にも積極的だ。今後再稼働は、四国電力の伊方、北海道電力の泊、東京電力の柏崎刈羽、関電の高浜3、4号機などが焦点となる。これからは、先に法案が成立した原子力規制委員会が事実上決定することになる。委員長には高度情報科学技術研究機構顧問・田中俊一が就任することになる。田中は「原子力ムラ」とは一定の距離を置く立場を取っており、原発再稼働についても「選択型再稼働」論であるようだ。中立性が求められる委員長人事は「ムラ」では駄目だし、「反原発」ではなおさら駄目。その中間を行く人事を野田はよく決めた。おそらく常識的な再稼働が推進されることになろう。人事は読売のスクープだが、朝日はブンむくれて、7月26日の社説で「候補者の所信を聞きたい」と難癖をつけている。この場合、朝日が難癖をつければつけるほど正しい人事であろう。こうして日本のエネルギー危機は、虎口を脱した。自民党ですら選挙意識で逃げまくった火中のクリを野田はあえて拾ったのだ。
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