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2012-07-11 06:52

野田は「尖閣国有化」を迷わず推進せよ

杉浦 正章  政治評論家
 なりふり構わぬ直進型右翼政治家と思っていたら、都知事・石原慎太郎も79歳ともなると“老獪”型に変貌したようだ。尖閣列島の東京都による購入に拘泥して譲らない。そればかりか首相・野田佳彦を攻撃し始めた。浅薄にも「選挙対策だ」というのだ。しかし、永田町には、尖閣購入を最大の旗印に新党を結成しようとしていたのは、逆に石原だという見方が支配的だ。アイデアを横取りされかねないから怒っているというのだ。日中間に刺さった棘を、政界への己の見果てぬ夢のために利用しようとしている。そうだとすれば、これこそ国家を危機に陥れかねない野望ではないか。ワシントンでの4月16日の講演で「尖閣は東京都が守る」と暴論を吐いて購入計画を明らかにした後石原は、帰国後に野田と会談している。この後石原は「尖閣問題は話に出なかった」と発言している。筆者は「うそを言うな」と思っていた。購入発言の直後に首相と会って、その話をしないはずはないと思ったからだ。案の定、今になって「野田に会ったときに『あなたに購入の意志があるのなら、2人で念書を交わして東京都が取得したら、その後に国に渡す。それでいいじゃないか』と言った。そうしたら野田は『はあ』とか言っていた」と重大な事実を明らかにしたのだ。野田は石原の話があったからこそ、国が購入する計画を進め、7月6日に方針を伝達したのだ。

 国会で「尖閣諸島を平穏かつ安定的に維持管理するには、どうしたらいいかという観点のなかで、今、さまざまなレベルで、さまざまな接触をしている」とも述べた。もともと国はかねてから地権者と接触を続けてきたが、埼玉の大地主だった地権者には、国に戦後農地改革で土地を接収されたわだかまりが潜在しているといわれる。よい返事を与えなかったのだ。石原の論理が矛盾しているのは、東京都が買った後国に譲渡するというのなら、なにも最初から国が買ってもおかしくないのではないか。地権者が渋るのなら地権者を国に売るように説得すべきではないのか。それが出来ない理由は何かといえば、狙っている「石原新党」の結成と、寄付金13億円の処理だ。石原は当初亀井静香の口車に乗って、3月にも新党を立ち上げる予定だったが、亀井やたちあがれ日本の平沼赳夫ではいかにもイメージが悪く、動くに動けない状況が続いている。民主党筋によると、そこで考えたのが地権者との間で話が進行している尖閣購入問題の「石原新党」への活用だという。寄付金が何と13億円も集まる人気を目の当たりにして、尖閣を旗印に新党を立ち上げようと考えたのだ。その矢先の政権による朝日へのリークと、これに次ぐ野田発言であった。虚を突かれた石原は、激怒して口を極めて野田批判を展開した。石原は野田を「選挙を前にした人気稼ぎだ」と決めつけた。おそらく地権者周辺にも吹き込んだと見えて、周辺からは「選挙を前にしたパフォーマンスであり、消費税や原発再稼働をカムフラージュしようとしている」と、明らかに“玄人判断”の発言が飛び出している。

 まさに、野田が意図したか、しないかは別にして、国による尖閣購入は、「石原新党」へのブレーキとなってしまったのだ。石原は飽くなき政界復帰への野望を捨てきれないまま、ふつふつとした思いにかられているのだ。おまけに国が購入するとなれば、独走して集めた13億円もの寄付金の処置に困ることになりかねない。石原は、もっと寄付金が集まるところを 、国有化方針で寄付者がちゅうちょし始めると思っているに違いない。これも怒りを増幅させた原因であろう。国が購入すれば、集めた金は宙に浮く。寄付者の目的通りに使われない場合には、訴訟さえ起きかねない。要するに、一自治体のトップにはあってはならない国の外交・安保への“しゃしゃり出”が、自らを窮地に置きかねない事態を招いたのだ。もともと尖閣列島の主権は日本にあり、領土問題は存在していない。ことは単なる土地所有権の問題であり、所有権が個人であろうと、国であろうと、日本の領土であることに変わりはないし、実効支配も継続し続ける。中国は最初は事の展開を理解できなかったといわれる。というのも、中国はすべての土地が国有地であり、土地の売買など考えられないからだ。その中国をあえて意図的に刺激して、波乱材料として、原爆保有にもつながる極右の野望を達成しようというのが、石原の意図なのだ。

 野田はひるむことはない。そもそも領土の保全は国の主権の最たるものであり、一都知事の個人的な思惑で左右されるべきものではない。このまま都の購入を認めれば、石原は諸島購入をいいことにして、政府に対中強硬外交を進めさせるべく、揺さぶりを掛けるだろう。確実に日中間に危険材料を横たえることになる。国に譲渡すると言っても、それまでに何をしでかすか分からないから、問題なのだ。現に腹心の副知事・猪瀬直樹は、国への譲渡について「リップサービス」とテレビに語っている。全く信用出来ないのだ。野田の思惑には、石原に尖閣問題を委ねてはコントロールが効かなくなり、対中関係が一段と悪化する事への懸念がある。これは実にまっとうな外交・安保上の考察である。石原の個人的な主義主張や思惑に惑わされることなく。国による購入計画を推進すべきである。一部国民は、石原発言で対中弱腰外交への溜飲を下げるのもいいが、見当違いの石原の思惑にはまる寄付など思いとどまった方がよい。そんなカネがあったら社会福祉施設にでも寄付してはどうか。
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