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2012-06-05 11:29

(連載)アラブの春への協力(2)

角田 勝彦  団体役員
 欧米諸国は「アラブの春」を歓迎した。2011年5月のG8サミットはエジプトとチュニジアを民主化の成功例として歓迎する「ドービル・パートナーシップ」を立ち上げた。 表明されたアラブ地域への支援総枠は400億ドルに上る。2012年5月のG8サミットでは支援の継続が確認された。反体制派の弾圧でこれまで9千人以上が死亡したとされるシリアについては、アサド退陣を前提に対応を進める米国(米国務省は2011年人権状況報告書で、シリア政府は反体制派に「残虐な」弾圧を加えていると批判)と「テロ組織に対抗する権利を有する」と主張するアサド政権に融和的なロシアの溝が埋まらなかったが、「地域の人々への改革の促進への願望に応えるためには、改革の継続が必要との認識で一致」した。

 アラブ連盟は5月末バグダッドで首脳会議を開催し、アサド政権に反体制派への武力弾圧を中止するよう求める共同声明を採択した。国連総会は、2011年末、アサド政権の対応を非難し、直ちに暴力を停止するよう求める決議を採択した。2012年4月14日、国連安保理は、シリアのアサド政権軍と反体制派の停戦監視のための平和維持活動の先遣隊派遣を承認する決議案を全会一致で採択した。国連はまず30人を限度とする非武装の軍事要員をシリアに派遣する。対シリア決議でこれまで2度拒否権を行使した親シリアのロシアと中国も今回は賛成した。

 さらに4月25日フランスのジュペ外相は「(武力行使を認める)国連憲章7章の下で、次のステップに移る必要が出てくるかもしれない」と述べ、進展がない場合、国際社会はシリアへの武力介入も含めた検討をすべきだとの考えを示した。なお国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、2012年版の年次報告において、対シリア非難決議案に拒否権を行使してきたロシアや中国について「安保理が効果的な行動を起こすことを妨げている」と非難し、安保理がメンバー国間の利害対立で機能不全に陥っており平和維持や人権保護に向けた本来の目的を果たしていないと批判している。

 このような進展のなかで、5月30日、日本政府は駐日シリア大使に国外退去を求めた。これは、5月25日にシリア中部で子どもを含む約100人が犠牲となる事件が発生し、アサド政権の反体制派弾圧への抗議で米英仏など欧米諸国が駐在大使に国外退去を要求したのと足並みをそろえたもので、今後とも対シリア協調行動が予想される。筆者が説いているニュールネサンスの大きな動きの一つは、1648年のウェストファリア条約が規定する主権平等、内政不干渉の原則が、とくに人権問題については揺らいでいることである。NPTの如何にかかわらず核兵器の開発も内政と見過ごすわけにはいかないだろう。対岸の火事とかまえがちだが、我が国はこの地域の安定のためいっそうの協力を行うべきである。(おわり)
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