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2012-05-25 10:10

(連載)思った以上に深い、鳩山外交が日米同盟に残した傷(3)

河村 洋  外交評論家
 まず長距離爆撃機について述べたい。国防総省の統計によると、爆撃機の保有数はベトナム戦争時の500機から現在では134機に減っている。技術の進歩によって1機の戦闘機でも複数の目標を攻撃できるようになったが、1機で同時に2ヶ所を攻撃することはできないので、同時並行攻撃は不可能である。リビアでのNATOの経験から、巡航ミサイルによる大規模な攻撃を持続的に行なうにはコストがかかり過ぎる。長距離攻撃能力がそれほど不十分なことを考慮すれば、「在日米軍は第7艦隊以外はグアムに移転せよ」という小沢一郎衆議院議員の発言は全く間違っている。また前進基地の爆撃機は後方基地の爆撃機よりも多くのソーティーをこなせる。沖縄には沖縄の役割があり、グアムにはグアムの役割がある。同様の論理はイランについても当てはまる。湾岸地域の前進基地にはそうした基地ならではの役割があり、ディエゴ・ガルシア島にはそこに見合った役割がある。剣には剣の使い道があり、長槍には長槍の使い道がある。

 長距離攻撃の成功には、前進基地からの戦術的な空爆とも併せて行なう必要がある。よって戦闘機の近代化と増加も必要である。これは特にA2/AD対抗能力の向上で重要である。中国は第5世代のJ20ステルス戦闘機や先端技術の対艦ミサイルといったA2/AD能力を開発しているが、アメリカにはF22とB2を合わせてもわずか185機である。アメリカ空軍にはさらなる近代化が必要である。イーグレン氏とバーキー氏は「政策形成に当たって優先すべき投資の対象は、まず次世代爆撃機である。そしてF35、KC46、F22の近代化である。次に空母を拠点とした攻撃および制空のためには、航続距離が長く探知され難い航空機も重要である。そして全軍一体となった電子戦能力も優先課題である」と主張する。両氏は手段とは現実に適合しなくてはならないと総括しているが、オバマ政権のアジア回帰戦略とエア・シー・バトル重視には数多くの矛盾がある。

 これまで述べてきたようにアメリカの政策形成も完全なものではない。しかし鳩山外交の傷があまりに深いので、アメリカ側にどのような間違いがあってもかき消されてしまう。これは「日本の一貫性のなさが両国関係を悪化させているが、アメリカ側には何も落度はない」という無意識の意識が現在の日米両国の間の空気を支配しているためである。普天間問題は日本の立場を損ない、アメリカの時の政権の政策が間違っていても「ノー」とは言いにくくなってしまった。当時の会合の出席者達は日本の政界とのつながりもあるため、鳩山外交の失態にもかかわらず日本に対して理解と忍耐と敬意を示した。しかしワシントンの政策形成者にはヨーロッパや中東の専門家も多く、彼らが日本に対してそこまで寛大でいられるかは保証の限りではない。

 野田佳彦首相は、鳩山政権が残したこれほどまで凄まじい難題に取り組まねばならない。しかし野党には野党ならではの利点もある。政権与党は目の前の仕事に掛かりきりになってしまうが、野党なら日米の同盟関係を長期的かつ土台から再建に多くのエネルギーを費やすことが可能で、そうしたことがアメリカで「超大国の自殺行為」に走るようないかなる動きも食い止め、孤立主義が高まることも防ぐことにつながるであろう。永田町での民主党の「未熟さ」など日本国民はわかりきっている。野党は永田町のコップの中の嵐を超えて行動をしなければならない。(おわり)
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