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2012-04-26 00:14

日銀が資金緩和をして本当に効くのか?

河東 哲夫  元外交官
 今、日銀をめぐって国会、政界で起きていることは、すこしひどいのではないか?要するに、日銀法を改正して総裁の任免権を政府に持たせてしまうぞと言って日銀を脅し、それが嫌なら「金融緩和」をやれ、ということなのだ。この1~2年、「日銀が『金融緩和』をしないから、景気が良くならないのだ」と言わんばかりの日銀たたきが目につくが、この言い方は2つの面でおかしいと思う。

 ひとつは、日銀法第2条には「第二条 日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」と書いてあって、重点は物価の安定にあるということだ。そこに行くと、金融緩和の「お手本」として識者がほめそやすアメリカの連銀は、雇用を最大限に確保することをその任務の第一として課されている。Federal Reserve ActのSection 2Aは、金融政策の目的としてこう言う。“The Board of Governors of the Federal Reserve System and the Federal Open Market Committee shall maintain long run growth of the monetary and credit aggregates commensurate with the economy’s long run potential to increase production, so as to promote effectively the goals of maximum employment, stable prices, and moderate long-term interest rates.”

 つまり、米連銀のように金融緩和してほしいなら(インフレの危険を冒すということ)、まず日銀法を改正しないと、日銀に違法行為を強要することになってしまう(そこの責任まで含めて日銀幹部に負わせるつもりだろうが)。まあ、そんなことは法を変えればいいので、もっと肝心なことは、今日の日本経済はいくら「金融を緩和」してみたところで、さして融資や投資が増えるわけでもない、ということである。国会議員は地元の中小企業、商店などへの銀行融資を増やして欲しいのだろうが、それは実現しないだろう。日本の銀行は融資が不良債権化することを恐れて、利益が確実に約束されている案件でないと融資しないからだ。利益のあがる案件があまりないことが今の日本経済の根本問題なので、いくら金あまりにしたところで、そこはどうにもならない。米国で金融緩和が効果をあげているように見えるのは、おそらく審査基準を緩くして住宅ローンを拡張するようなことをしているからではないか?

 理屈がこうなのに、国会議員たちが「日銀による金融緩和」にご執心なのは、選挙区で消費税増税でよほど追いつめられていて、何か緊縮財政に代わって景気を支えてくれるような何かが欲しいのだろう。そして財務省は、日銀に「金融緩和」(要するに札をどんどん刷るということ)させ、都市銀行に資金をあふれさせたうえで、国債をさらに買ってもらおうという算段なのかもしれない。確かにこうしておけば、国債を大量に発行しても長期金利が上昇する心配はなくなる(但しやり過ぎるとハイパー・インフレが起きる)。更には、もし25日米国連銀が金融緩和第3弾に踏み切らない場合には、吸血鬼が血に飢えるようにカネに飢えているウォール・ストリートの金融資本に、日銀が「血」(円)を提供し、大統領選前の米国景気を支えることもできる。この中でいちばん利用されているのは、国会議員たちなのだろう。日銀が金融緩和したところで、選挙区の景気が良くなるわけでもないのだから。このくらいの緩和でハイパー・インフレが起こるとは思わないが、自分の再選のためには法を無視し、民意だと言って道理の通らない政策を日銀に押し付け、うまくいかない場合の責任は日銀に押し付けようという、その魂胆は風上に置けないと思う。
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