国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2012-04-09 18:39

国家と市民の信頼関係を再考すべき

水口 章  敬愛大学国際学部教授
 国連の安全保障理事会は3月21日、対シリア議長声明を全会一致で採択した。議長声明は安保理メンバー国が、悪化するシリアの人権状況を前にしたアナン前国連事務総長の緊急人道支援への提言を推進するというものである。一部報道では、米国がすでに、シリアに人道支援要員受け入れを求める安保理決議案の作成の意思を示していると伝えられている。少なくとも、この議長声明がシリアでの「人間の尊厳」を確立する第一歩となるよう国際協力を推し進めなければならないことは確かである。「尊い人間の命」という観点では、フランス南西部トゥールーズで起きたユダヤ人学校でのアルジェリア移民の青年による教師、児童殺害事件(3月19日)やアフガニスタンのカンダハルでの米国兵士による銃乱射事件(3月11日)など、何故だ、と思わず声がでてしまうような事件が続いている。

 冷たい引き金を引く瞬間、人はわれを忘れるのだろうか、爆弾やミサイルの発射ボタンを押す瞬間、人は神に祈るのだろうか。一方、無辜の市民を標的にすることも厭わなくさせてしまうほど、国家や民族への帰属意識を高める空間が存在していることに戦慄を覚える。アフガニスタンでは、1979年のソ連の侵攻以降、戦いは止まない。現在の同国の情勢は、北大西洋条約機構(NATO)が作成した報告(4000人のタリバン捕虜の証言と2万7000回の尋問より)によると、同国治安部隊の一部がパキスタンのタリバン支援に関与していることや、タリバン幹部は同組織が円滑に勝利し政権に返り咲くことに確信を持っているという。

 アフガニスタンの治安機関は、軍が18万4000人、警察14万5000人に上るまで人員の整備がされている。しかし、そこに所属する人々の識字率は低く、集団として連帯行動が十分とれないなど治安能力の向上には時間がかかる。一方、このような訓練には費用もかかるが、復興支援国会議での支援額を提示したものの、実質は支援をしていない国もあり、財政面での問題も生じている。今後、銃乱射事件の報復で高揚したタリバン側の攻撃が強まることが予想される中、前線にいる国際治安部隊の兵士たちの緊張感はより高まっていると思われる。その一方、米国国内ではアフガン人16人を殺害したロバート・ベールズ2等軍曹の軍事法廷においては、被害者の遺族やアフガン市民の怒りとは別に、「戦場が作る狂気」が語られることになるだろう。

 そのことで、米国の世論では厭戦機運が一層高まると思われる。その中、オバマ大統領は選挙戦を戦うと同時に「オバマの戦争」と呼ばれるアフガニスタンでの戦いを続けられるだろうか。近代国家においては、市民は国家に自らの安全など多くのことを委ねている。しかし、ユダヤ人学校関係者への銃撃事件が起きたフランスにおいても、イラクやアフガニスタン、シリアなどにおいても、国家が市民の安全を守ることが難しくなっている。そして、日本においても、東日本大震災と安全・安心を委ねてきた政府への信頼が消えた。世界的に、国家と市民の間で信頼関係を結びなおす必要性が生まれているように思う。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム