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2012-04-03 17:08

(連載)永田町はイランとの関係を再考せよ(1)

河村 洋  市民政治運動家
 本欄への2月15、16、17日の連載投稿「イデオロギー上、イランは日本の敵である!」に記したように、日本の指導者達と市民は「イランの現体制の恐るべき性質は我が国のナショナル・アイデンティティーとは全く相容れない」ことを見過ごしている。これに鑑みて、玄葉光一郎外相と自民党の藤井孝男参議院議員が、3月26日の参議院予算委員会で行なった質疑応答は驚くべきものである。両氏とも、日本が英・イラン石油紛争の時期に共産主義者のムハマド・モサデグ首相と「友好関係」なるものにあったことを称賛したのだ。あろうことか両氏とも衆人環視の中で、「サー・ウィンストン・チャーチルよりもヨシフ・スターリンを支持する」と宣言したのである。

 イラン近代史の地政学を考慮すれば、両氏の発言はきわめて軽率である。ここで近代イランの地政学的な歴史に触れてみたい。イランは19世紀以来、列強の衝突の舞台であった。植民地帝国主義の時代、イギリスとロシアはこの地でのグレート・ゲームで競合した。第二次世界大戦中には連合国がイランをソ連への軍事物資供給ルートとして利用した。しかしスターリンはすでに戦争が終結したにもかかわらず、イラン北部でのソ連軍の駐留を維持した。1946年のイラン危機は国連安全保障理事会で審議された最初の事案で、イラン帝国政府は米英両国の支持によって赤軍を自国領内から放逐することに成功した。

 イランが大国間の勢力争いでこれほどまで重要な地位を占めることを考慮すれば、モサデグが自らの背後にソ連の影響力があることを示唆したことは、あまりにも軽率であった。イギリスとイランの石油紛争の最中、日本は英米による制裁に従わなかった。出光興産はイランから石油を輸入するために、イギリス海軍による封鎖をかいくぐってタンカーを派遣した。しかし、それは玄葉氏と藤井氏が国会で述べたほど栄光に満ちたものではない。

 日本の戦後復興と高度経済成長をもたらしたのは出光ではない。モサデグ政権が生き残っていれば、湾岸地域に赤いナショナリズムのドミノ効果が起こっていたであろう。参議院での玄葉氏と藤井氏の発言とは逆に、1950年代から70年代にかけて、日本が中東の安定を「ただ乗り」して「トランジスター・ラジオのセールスマン」として経済成長に集中できたのは、英米によるクーデターが成功し、モサデグの退陣とシャーの復権が成し遂げられたからである。その後、シャーのイランが「ペルシア湾の憲兵」として、中東の安全保障という国際公共財を提供したことは、周知の通りである。(つづく)
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