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2012-03-11 07:51

(連載)日本国際フォーラムの対中「関与政策」提言について考える(2)

高橋 敏哉  新潟大学講師(非常勤)
 第一に、「関与政策」に重要な「中国への影響力」の問題である。とりわけ日本が今後どのようにこれを維持し、あるいは「関与政策に必要な程度まで」増大できるかという課題である。「関与政策」に必要なことは、「挑戦国の行動を修正することのできる、挑戦国に対する十分な影響力の保持」である(例えば、Peter Feaver, mimeo)。しかしながら、物質的な力関係では、軍事、経済両面において日中関係は逆転の方向に向かっていることは自明である。従来のような日中間の経済相互依存関係を通じた「影響力」の行使は、徐々に相対的に力を失い、中国の行動に修正を促すには十分なものではなくなる日は遠くない。脱物質的な影響力、あるいはスマート・パワー的影響力の重要性が今後高まることは必至であるが、肝心なことは、どの分野を日本が中国に相対的に影響を与え得る分野として拡充、開拓していくかという点である。それは中国が「日本の影響力」を十分に感じ、その「行動に修正をかけるインセンティブ」を与えるレベルのものでなくてはならない。

 そもそも、国際政治の伝統的な議論が示すよう、影響力の関係は客観的、一義的なものではなく、相互主観的で多義的なものである。中国側にとって日本の影響力を無視し得ない分野は何か。その観点からの戦略作りが喫緊の課題である。具体的な分野として、民主主義、人権、東アジア地域でのガバナンス作り、それらに向けてのプロセスの組み立て、規範作りなどの例が挙げられるであろうが、大事なことは、このような分野で日本の対中優位性をどう確保するかいう視点である。提言にある「不戦共同体」を価値規範とする対中外交もこの文脈で理解すべきであり、日本にとって相対的に優位な対中影響力の一要素として位置づけるべきと思われる。中国の行動を変え得る「質的に大きな日本」を作り上げる戦略を官民あげて推進する必要があろう。

 第二に、アメリカの対中「関与政策」との関係で生じる日米同盟の変動の幅にどのように対処していくかという課題である。「関与政策」の持つ複雑な性格と相俟って、アメリカの「関与政策」の下で米中関係は柔軟に動くことは自明である。日本の対中「関与政策」の安定化は、日米中三角関係の中で、日米同盟の意味の変化に、日本が如何に柔軟に対応できるかという点にかかってくる。米中関係の局面に応じ、「日米同盟」という言葉は同じであっても、その内容と米国のコミットメントは変わるであろう。

 また、「関与政策」がより成果を上げる段階においては、東アジアの「公共財」としての日米同盟に中国がどのように関わるかという問題も出てくるであろう。この場合の日米同盟は、中国への力の均衡としての軍事的要素が薄まることは言うまでもない。日本の対中政策においては、「関与政策」の段階と展開に応じた「現実主義的な」柔軟さが求められ、また、同時に日米同盟と並んで日本が単独で中国に影響力を与える外交的資源の充実も必要となる。過日、グローバル・フォーラムの主催する「日米中対話」に参加する機会を得、改めて多くの知的刺激を受けたが、日米中の三国間主義(trilateralism)での北東アジアの国際秩序をも「シナリオ」の1つとする「幅の広い関与政策」への準備が必要であろう。(おわり)
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