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2012-03-10 21:54

(連載)日本国際フォーラムの対中「関与政策」提言について考える(1)

高橋 敏哉  新潟大学講師(非常勤)
 日本国際フォーラムの第35政策提言「膨張する中国と日本の対応」の中で、「日本の中国への関与政策」が打ち出された。日本において「関与政策」の必要性を最初に明言した画期的な提言と思われる。一方で、日本国内に限らず「関与政策」の議論には、その学術的定義の曖昧さも加わり、内容に大きな幅があることは否定できない。実践上、「関与政策」を単なる「融和政策(appeasement policy)に近いもの」とするのか、あるいは「封じ込め政策(containment policy)に近いもの」とするのかによって、その政策目標、態様は大きく異なる。第35提言の趣旨を発展させ、「関与政策」を正確に日本外交の中で根付かせるためには、精緻な議論の積み重ねが必要である。この論稿では、日本の対中「関与政策」に関わる重要な変動要素として2点を指摘し、その国内での議論の発展のための視点を提示したい。

 「関与政策」とは何か。「関与」という言葉の持つやや広めの一般的な意味合いからも、その一義的定義には困難さが伴う。過去の「関与政策」の例では、「関与」の前に形容詞が付けられることも多く、クリントン政権は対中「関与政策」を「構築的関与政策(constructive engagement)」として打ち出し、豪州の東南アジア「関与政策」は「包括的関与政策(comprehensive engagement)」とも呼ばれる。(例えば、Evans & Grant: 1995)。

 しかしながら、若干の単純化をお許し頂くなら、今日学術的には「関与政策」を以下のように定義できるであろう。それは、「現状の秩序への挑戦国」に対し、「非強制的手段により」、「国際関係の秩序」に引き込む政策を指すものである(例えば、Randall Schweller:1999)。この立場での「関与政策」は封じ込め(containment)とは異なり、この挑戦国の意図を外から抑え込むことを主眼とするのではない。挑戦国に既存の秩序保持のメリットを理解させ、現状の国際秩序のルールを破壊しないよう、その中に取り込むことである。それは相互の譲歩も多く含むものであり、「辛抱強い関与」を求める。また軍事力から非軍事的手段までを相互に織り交ぜながら進める、外交的な熟達を前提とした「理性的かつ現実主義的」性格を有する政策であるといえよう。

 日米同盟を所与とした日本の対中「関与政策」は、対米、対中との関係において至って微妙な距離の取り方、バランスの舵取りが求められる政策である。また、現実主義的要素として日本の影響力の維持という大きな課題が圧し掛かる。現段階において、日本の対中「関与政策」を実践に移し、それを成果あるものとするには、2つの変動要素を精緻に考慮する必要があると思われる。(つづく)
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