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2012-02-20 10:00

不安定と緊張続く米中関係

鍋嶋 敬三  評論家
 米中関係は2月21日、歴史的なニクソン大統領の訪中から40周年を迎える。この時期を選んだかのように中国の次期最高指導者になることが確実視されている習近平国家副主席が訪米した。オバマ大統領ら首脳同士の意見交換で個人的なつながりができたことは意義がある。今後10年間、次の国家主席として中国を引っ張っていく習氏にとって「顔見せの旅」は意味があったろう。しかし、米中関係の基本的課題で目を見張るような進展はなく、むしろ関係発展のむずかしさが浮き彫りになった。理由は国内政治の制約である。11月の大統領選挙で再選を目指すオバマ大統領は高い失業率に苦戦を強いられ、巨大な対中貿易赤字、財政赤字について共和党からの攻撃にさらされている。習氏も自前の政権体制を確立するには数年を要し、ここで政治的失敗は許されない。中国の国力増進につれ経済、通商、軍事面での摩擦が発生し、米中関係の不安定と緊張の局面が続くことは避けられない。

 米プリンストン大学のAaron L. Friedberg教授の最新の著作、A CONTEST FOR SUPREMACY は注目に値する。米国が有利な対中バランスを維持するための同盟強化を怠れば、アジア諸国に米国による安全保障への信頼感が損なわれ、対中融和政策への傾斜が強まると警鐘を鳴らしている。教授によれば、米国の対中政策はエンゲージメント(関与)とコンテインメント(封じ込め)の間を揺れ動き、時には交じり合ったアプローチをとってきた。オバマ政権の初年(2009年)には関与政策の強化を狙ったが失敗、2010年には人権問題などで強腰の「よりバランスのとれた戦略」へと転換した。その具体例が尖閣諸島沖の中国漁船による巡視船への体当たり事件や、南シナ海ほぼ全域の主権を主張してフィリピン、ヴェトナムなど周辺6カ国との紛争を激化させた中国への厳しい対応である。

 「21世紀は太平洋の覇権をめぐる競争になる。太平洋で地歩を固めなければ世界のリーダーにはなり得ない」と言うリー・クアンユー元シンガポール首相の発言を教授は「正しい」と評価した。著作の題名もこれを意識したものに違いない。米中両国がアジアで影響力を競い合う以上、米中の戦略目標は相容れない。教授によれば、米国の目標は同盟関係の維持、強化であり、中国の増大する力とバランスをとることによって、利害が共通する国々と新しいきずなを築くこと。一方、中国の目標は米国が長年築いてきた同盟関係が結果的に解体するように持っていき、アジア諸国との間で新たに対抗するような連合ないし提携関係を作り上げることである。米国は習氏を国賓級のもてなしで迎えたが、厳しい本音の応酬は米中関係の今後を予想するのに十分だった。バイデン副大統領は歓迎昼食会で「人権は米国外交政策の基本的視座だ」と断言、貿易不均衡、人民元の過小評価、知的財産権、技術の強制移転防止など米国の「最大関心事」をこれでもかと並べ立て、宴席が白けるほどだった。

 中国側も負けてはいない。習副主席は翌日の昼食会で中国の領土主権を意味する「核心的利益」に言及(米紙報道)、台湾、チベットの独立運動に米国が加担するなとクギを刺した。さらに人権問題では「我々が違うのは当然だ」と切り返した。中国のスタンスは何も変わっていない。中国軍事力の急拡大で核攻撃によらずとも通常戦力による「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」戦略が奏功しつつある。近い将来、中国の少数の弾道ミサイル攻撃で沖縄の米軍嘉手納空軍基地の航空戦力の75%が破壊ないし作戦不能に陥るようになる。さらに空母機動部隊が撃沈ないし退避を余儀なくされれば、米軍は台湾海峡から1,500マイル先の基地に追いやられるという米シンクタンク報告もある。沖縄駐留の海兵隊の分散配置、オーストラリアへの移駐、フィリピンとの防衛協力・部隊のローテーション配置など東アジアでの米軍の最近の活発な動きは、明白になってきた西太平洋でのぜい弱性を意識したものであろう。
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