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2012-02-10 10:10

削減できない国防費-パネッタ国防長官の苦悩

川上 高司  拓殖大学教授
 パネッタ国防長官は今後5年間で2,590億ドルの国防費の削減を発表し、陸軍や海兵隊の兵員規模を縮小して、「小規模だが能力は高く小回りの利く米軍」を目指すことを示した。2001年にラムズフェルド国防長官が目指したのが「ハイテク・機敏な米軍」だったことを思い起こせば、10年経っても実現できないほどの困難な目標なのだろう。

 机上の理想はともかく、現場では想定外のコストがかかることがある。ここに来て予想外に米軍やNATOを苦しめているのが輸送コストである。昨年11月にNATO軍のヘリコプターが誤ってパキスタン軍基地を攻撃して多数の犠牲者を出した。この事件に怒り心頭に達したパキスタン軍は、カラチからカブールへの輸送道路を閉鎖して今に至っている。NATO軍は代替ルートとして、ロシア-カザフスタン、ウズベクスタン、タジキスタンを経由する道路や鉄道を使って物資の55%を輸送している。だが、距離にして1,000マイル(およそ1,600キロ)、従来のカラチルートの5倍の距離を、火器類はもちろん水からガソリンまで運ばねばならず時間もコストも膨大である。

 もうひとつはキルギスタンの空軍基地からの空輸ルートが利用されている。しかし空輸では輸送できる重量に限界があり、こちらもコストが高く、カラチルートだと1ポンド(約453グラム)30セントが空輸では3ドルに跳ね上がる。いずれの場合も輸送できる積み荷は致死性の高い兵器は許されていない。中央アジア諸国としてはパキスタンには遠慮があり、またそのような重火器を輸送すれば自国内で輸送部隊を狙ったテロが起こる可能性が高くアフガニスタン戦争に巻き込まれてしまうと同時に国内でイスラム過激派が台頭してくるのではという懸念があるからだ。

 このように制限が多くコスト高の1,600キロを運ぶ大がかりな兵站であれば、部隊は小回りが利いても結局はコスト削減にはならないのではないだろうかという疑問すら沸いてくる。やはりコスト削減の最も近い道は撤退という結論に行き着き、サルコジ大統領が早期撤退を主張し始めたのもこの輸送コスト高が背景にあるのかもしれない。国防費のコスト削減の道のりは遠すぎるようである。
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