国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2012-02-06 06:53

首相は「原発ゼロ」を黙認するのか

杉浦 正章  政治評論家
 防衛省問題と消費増税論議の影に隠れているが、我が国のエネルギー政策が危機に瀕している。肝心かなめの経産相・枝野幸男が「今夏の原発全面ストップ」を公言し始めているのだ。首相・野田佳彦はかねてから安全確認を前提に休止中原発の再稼働を明言してきたが、国のエネルギー政策の大転換を一経産相が口にして、そのまま放置するのか。それとも、野田政権は、解散・総選挙を意識して、なし崩しに原発ゼロにもってゆこうとしているのか。枝野は朝日新聞とのインタビューで、「この夏原発がゼロになる可能性はある」との認識を示した。今夏に全国で稼働している原発をゼロと想定したのだ。東京電力福島第一原発事故の影響で地元の同意を得るのが難しくなっているのがその理由であるという。枝野は「安全と安心をないがしろにして稼働することは許されますか」と開き直っている。しかしこの発言は政府の基本方針と大きくずれているのではないか。もともと定期検査で停止した原発は、ストレステストを実施した上で、安全と確認されれば再稼働する方針であった。停止原発を稼働させなければ、4月下旬にも全54基の原発が止まり、電力の3割を失う非常事態に陥る。そのストレステストの公平さを確認するために国際原子力機関(IAEA)に調査を依頼したのは日本政府ではないか。

 IAEAは2月1日、経済産業省原子力安全・保安院によるテストは「IAEAの安全基準に準拠している」と評価して、妥当とする報告書を提出した。条件は整ったはずではないか。それをこともあろうに担当相が「安心と安全」という極めて漠然とした感情的な理由を挙げて「原発再稼働せず」を明言して良いのか。かねてから枝野はその発言傾向から推察して、イデオロギー的な原発反対路線をとっていると感じていたが、今回の発言はますますその感を強めさせる。前首相・菅直人がソフトバンク社長の孫正義と連携して新エネルギーが今にも実現するような虚構をばらまいたが、新エネルギーが全エネルギーのたった1%の域を抜け出る方策・技術など遠い先の話だ。東電は原発停止を理由に工場やオフィスなど大口契約者向けの電気料金を、平均17%値上げする方針だ。家庭向けも値上げを実施する流れだ。この電力料金の消費者への転嫁は、まさに増税と同じであり、消費増税より一足先に「電力増税」が行われるのだ。しかも原発の再稼働がなければ、全国の電力会社に波及することは目に見えている。

  電力不足が3年続いた場合、製造業の6割が国内生産を縮小・停止させるという調査結果が出ており、この夏までに停止原発を再稼働することが出来るかどうかにすべてがかかっていると言っても過言ではない。電力不足が、産業空洞化と雇用の減少を引き起こすことは火を見るより明らかだ。諸外国はおおむね「フクシマ・ショック」から立ち直って、原発建設推進が再び大きな潮流になろうとしている。石油王国のサウジアラビアですらそうだ。サウジの高官は最近日本政府関係者に対し「資源は有限だ。人類のために長く使えるようにする。そのために原子力発電と太陽光発電に力を注ぐ」と述べると共に「フクシマの経験を生かしてより安全になった日本製原発を使いたい」と申し入れてきた。太陽パネルも安価な中国製より高くても日本製が良いと述べたという。

 その中国ですら専門家が「日本が原発をゼロにすれば化石燃料の高騰を招く。早く稼働して欲しいというのが、中国政府の本音だ」と政府関係者に伝えてきているという。もちろん中国は原発大増設計画を推進している。それにもかかわらず日本だけが一部マスコミのイデオロギー的な扇動もあって、原発再稼働アレルギーですくんでしまっているのはどう見てもおかしい。野田は久しぶりに大局観がある首相かと思っていたが、閣僚の「今夏原発再稼働なし」発言を黙認するのか。それとも解散・総選挙を意識して、原発再稼働は票にならないと判断しているのだろうか。原発政策で大転換するなら、堂々とその方針を掲げて選挙に臨むべきではないか。一番政権担当者として良くないのは、国家にとってクリティカルな問題で態度をを鮮明にしないことだ。原発なくして日本経済の再興はあり得ない。ここはIAEAの判定を追い風に、原発を再稼働して突破口を開くことだ。このままでは財界に不安感が残って、生産工場の海外移転がさらに促進されるばかりではないか。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム