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2012-02-01 13:40

急がば回れ、消費税の引き上げ

角田 勝彦  団体役員
 危惧したとおり、野田政権は無理に手を広げた結果、政局に追い込まれかけている。すなわち野田首相は消費税率引き上げを含む社会保障と税の一体改革で3月の関連法案提出を目指し、与野党協議を経て1月内に大綱を閣議決定する意向だったが、野党は、とくに首相が1月30日の参院本会議で、民主党の年金抜本改革案の試算を当面公表する必要はないとの考えを示したことに反発して与野党協議に応ぜず、与党単独で法案を提出せざるを得ない可能性が現実味を帯び始めている。それは解散総選挙か内閣崩壊を導こう。内外の経済困難に加え、復興と予想される自然災害への備え(たとえば高速道路改修、帰宅困難者対策)が我が国の急務になっている現在、野党が政権交代を期待し歓迎している政局へ突入し政治に空白を生むのは愚であろう。

 とくに野党(消費税率10%は自民党の公約)も国民も消費税率引き上げそのものの必要性はほぼ認めており、現時点の一体改革にこだわらなければ協議が可能と思われるから、なおさらである。まず身を切る行革(たとえば国会議員定数と国家公務員給与の削減)及び社会保障制度改革案策定など不可分の懸案に力を注げば、消費税率引き上げ、ひいては財政再建への合意の道は自然に開かれるのではなかろうか。そもそも現在の一体改革案は一時しのぎである。1月下旬明らかになった2015年度までの国の歳出と歳入の見通し(財務省試算)では、15年10月の消費税率10%への引き上げが実現しても、新規国債発行額は45.4兆円となり、12年度予算案の新規国債発行額44.2兆円より増えてしまう。とにかく社会保障給付は100兆円を超え、うち70兆円が高齢者関係なのである。

 今後問題はさらに大きくなる。1月30日発表の将来人口推計では、50年後には日本の総人口は今より3割以上減少するなか人口の約4割が高齢者という超高齢化社会が到来する。1月22~23日の読売全国世論調査によれば、少子・高齢化により今の社会保障制度を維持できなくなるという不安を感じる人は93%に達し、維持のために消費税率の引き上げが「必要だ」と答えた人は63%、制度の水準を維持するために「税金や保険料が今より高くなっても構わない」との答えは37%に上って、「今より高くならないようにすべきだ」の31%を上回った(ただし「2014年4月に8%、15年10月に10%に引き上げる」との政府・与党案支持は16%)。「入るを量りて出るを制す」という通り、収入によって支出を決めるのが財政の基本である。無い袖は振れないということである。

 社会保障給付のうち30兆円を占める医療給付では、適正化が遅れるなか保険料負担増が続いている。現行制度の社会保障の削減は困難だろうが、民主党は人気取りのバラマキ・マニフェストを断念すべきである。最低保障年金(満額月7万円)の創設などを盛り込んだ民主党の年金抜本改革案の導入には、将来的に消費税最大7.1%分の財源が必要と言われる。経済成長により財政状況が好転することでもない限り、導入は無理だろう。税収確保とともに一段の歳出削減が求められるべきである。モンゴル帝国の大宰相耶律楚材は「一利を興すは一害を除くにしかず、一事をふやすは一事をへらすにしかず」との言葉を残した。社会保障給付の是正協議を与野党で真剣に始めるべき時期が来たのかも知れない。
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