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2011-12-26 13:53

「宇宙戦略室」新設を歓迎する

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 政府は、2012年1月に召集される通常国会に、宇宙基本法改正案と関連法案を提出し、4月にも、内閣府に「宇宙戦略室」(仮称)を新設する方針である。宇宙戦略室は、省庁間にまたがる政策調整権限を与えられ、宇宙政策を一元的に所管し、我が国の宇宙開発及び利用を統合的に推進することが主眼である。宇宙戦略室の設置は、民主党政権の悪弊である法的根拠の曖昧な組織とは異なり、宇宙基本法の附則に則ったものである。すなわち、同法附則第2条は「政府は、この法律の施行(筆者注:2008年)後一年を目途として、本部に関する事務の処理を内閣府に行わせるために必要な法制の整備その他の措置を講ずるものとする」としている。これを具体化したということになるが、「一年後をめどとして」とあるから、本来、2009年~2010年ごろに設置されているべきものである。民主党政権下で放置され続けてきた措置が、遅まきながら講じられる運びとなったのは、宇宙開発に関心が深い野田総理の意向が強く働いたものと推測される。
 
 宇宙開発戦略本部は、首相を本部長とする我が国の宇宙政策に関する司令塔だが、同本部に関する事務の処理を内閣府に行わせる措置が講じられてこなかった結果、組織として未完成なものであり、十全な機能を果たすことができなかった。その結果、複数省庁間での調整が進まず、諸外国の日本の技術への需要に十分に応えることができていなかった。具体的には、測位やリモートセンシングといった分野である。高い技術を持ちながら、売り込む体制が出来ていなかったのは、如何にも惜しい話である。宇宙基本法の規定からすれば、かなり遅くなったとはいえ、宇宙戦略室設置予定は、こうした状況を改善するための正しい一歩が踏み出されたものであると評価したい。

 また、宇宙戦略室は、宇宙利用の企画・立案や省庁間の政策調整に加えて、安全保障政策も対象に入れるようである。安全保障の宇宙への依存がますます進んでいることを考えれば、これは、極めて妥当である。具体的には、例えば、弾道ミサイルの発射を熱的に探知する早期警戒衛星の打ち上げなども検討課題となるはずである。早期警戒衛星は、費用対効果の面で賛否が分かれるが、導入すれば、ミサイル防衛システムの機能強化や、米国との情報共有といった面で有用であろう。また、他国による人工衛星に対する攻撃(ASAT)の問題についても議論されるべきであろう。

 宇宙基本法には、宇宙の平和的利用、国民生活の向上等、産業の振興、人類社会の発展、国際協力等、環境への配慮が、宇宙開発の理念や目的として挙げられている。宇宙戦略室の設置が、これを血肉化する一歩となることを期待したい。宇宙戦略室の設置と併せて、有識者による「宇宙政策委員会」を内閣府に設置することになっている。しかし、一方で、首相を議長とする国家戦略会議にフロンティア分科会を設け、海洋権益の確保や宇宙の平和利用などに関する長期ビジョンをまとめることも決まっている。かねてから、フロンティア分科会の設置には、屋上屋を架すものではないかと、疑問を抱いていたが、その懸念の通りになってきている。これでは、宇宙開発及び利用政策の一元化に反することになる。重複は排するべきであり、宇宙開発及び利用に関しては、少なくともフロンティア分科会の対象から外し、宇宙基本法の規定に基づいた宇宙戦略室と宇宙政策委員会に委ねるべきである。「船頭多くして船山に登る」の愚は避けていただきたい。
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