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2011-12-12 16:44

(連載)米海兵隊の豪州配備合意の意義(2)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 今後の世界の平和と繁栄の要は、インド太平洋地域の平和と安定にかかっている。その北東の頂点に位置するのが日本であり、南東の頂点に位置するのが豪州である。そして、この地域の内部の、および、外部と結ぶ海上交通路の安全確保を中核とする、海洋安全保障をいかに達成していくかが最大にして最重要の課題である。そのためには、米国をインド太平洋地域に深くコミットさせることが肝要であるし、幸いにして米国は現在その意思を強くしている。これには、バーデン・シェアリング(負担の分担)がカギとなる。米豪の安保協力は、その意味でもよい手本を示してくれている。先にも指摘したように、海兵隊のダーウィンへの駐留は、ささいなものである。しかし、それと対をなして、2009年に豪州が国防白書で示した、豪州の大軍拡構想があることを忘れるべきではない。

 同白書は、豪州の戦略利益を、(1)自国防衛、(2)近隣地域の安全・安定・結束、(3)北アジアから東インド洋にわたる地域の安定、(4)テロや大量破壊兵器拡散などの越境的脅威への対応、と位置づけている。そのために、2030年をめどに、海軍力と空軍力を大幅に増強すること、国防費を年2.2~3%増額させるとしている。豪州の国防戦略と相俟って、米豪安保協力が単なる象徴を超えたものとなり得るのである。11月21日に、米紙ニューヨーク・タイムズは、海兵隊の豪州への配備についての特集を組み、4人の専門家が簡潔な論評を寄せている。その中で、ヘリテージ財団ディーン・チェン(Dean Cheng)研究員は、米豪同盟は米英の特別な関係に比肩しうるものであると指摘している。これは、裏を返せば、米豪同盟が日米同盟より、質的に上回ると言っているに等しい。

 鳩山、菅政権下よりは好転したとはいえ、日米間における戦略についての真の対話が到底十分ではないこと、日本と豪州を比較した場合、どちらが地域の平和と安定のために、バーデン・シェアリングに真剣に取り組んでいるかを考えれば、チェンの指摘は、警鐘として傾聴すべきであろう。豪州は、先に述べたように、2030年を目標に大軍拡を打ち出しているのに対して、我が国は、防衛費の漸減が続いている。周知の通り、我が国は、集団的自衛権の行使もできないことになっている。しかし、米豪同盟の重要性が日米同盟のそれを凌駕するということはあり得ないし(チェンもそのようには言っていない)、両者を競合的に捉えるべきものでもなく、両者は互いに補い合うものである。日米豪は、アジア太平洋戦略をより緊密に擦り合わせる必要がある。

 ただ、その前に、沖縄の米軍基地再編問題を、沖縄の負担軽減の文脈でしか見ないという我が国の態度は、直ちに改めるべきである。そうしなければ、戦略の話にならない。そして、防衛費と集団的自衛権の問題を解決することは必須である。今こそ、「日米同盟を米英同盟並みにすべし」という、アーミテージの長年の主張を想起すべきである。日米豪の安保協力を地域の国際公共財として育てていかなければならない。今回の海兵隊の豪ダーウィンへの配備合意は、是非とも、その契機としたいものである。(おわり)
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