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2011-12-11 12:54

(連載)米海兵隊の豪州配備合意の意義(1)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 11月の米豪首脳会談に際して取り交わされた、米海兵隊の豪ダーウィンへの駐留を含む米豪安保協力に関する合意は、かなりセンセーショナルな扱いを受けた。合意から1カ月近くたつが、改めて、その意義について概観してみたいと思う。米豪同盟の強化の目的については、様々な指摘がなされた。すなわち、従来の米海兵隊の拠点である沖縄とグアムは中国のミサイル攻撃に対して脆弱であるから分散配置を目指している。また、中国の軍拡とA2AD(接近阻止・領域拒否)戦略に対抗する、エアシーバトルと称する米軍の海空統合作戦の一環である。手狭な沖縄やグアムでは困難な、ヘリコプターや航空機からの降下や射撃訓練が可能になる。

 クリントン国務長官は、11月に米外交専門誌『フォーリン・ポリシー』誌に寄稿した、米国のアジア太平洋回帰を宣言する論文の中で、アジア太平洋の米軍再編の今後の在り方について、次の三つの原則に基づくとしている。すなわち、(1)地理的に配置を分散する、(2)作戦面での弾力性を高める、(3)駐留国等における米軍駐留の政治的な持続可能性に配慮する。海兵隊のダーウィンへの駐留合意と、それに対する、先に挙げたいくつかの指摘は、クリントン長官が掲げる三つの原則に合致しており、いずれも一見もっとものように思われる。

 しかし、今回の合意は、ささやかに過ぎる。海兵隊をダーウィンに駐留させるといっても、2016年までに段階的に2500人に増やすというものに過ぎない。オバマ政権は、今回のアジア太平洋歴訪を「アジア太平洋回帰」と位置づけたが、米豪安保協力強化は、少なくとも現段階では、実体的な意義をもつというよりは、象徴的なものであるというべきである。しかし、中国が海洋進出圧力を高め、より攻撃的主張をして、地域の各国に脅威や不安を与えているのだから、象徴とはいえ重要な合意である。対中牽制を目的としているのは言うまでもない。

 ダーウィンへの海兵隊配備合意は、アジア太平洋における、米軍再編の一環である。そして、忘れてはならないことは、米軍再編は、現在進行形の事象であるということである。極言すれば、米国のアジア太平洋戦略は、我が国の安全保障態勢を規定するものである。それゆえ、米国のアジア太平洋回帰の要ともいうべき豪州への海兵隊駐留合意に、我が国は、無関係であるはずがない。その意味は、沖縄の海兵隊を豪州に移転できるかどうか、などという話ではない。(つづく)
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