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2011-11-25 22:38

アメリカ、理想との決別

川上 高司  拓殖大学教授
 オバマ大統領は今後アメリカはアジア太平洋に重点を置くと宣言した。その方針にしたがって中国の軍事的脅威に対抗する一方、TPPやAPECでは積極的に経済外交を展開する。軍事的にそして経済的に中国を封じ込めるような政策である。ポイントは中国を脅威とみなすかどうかである。その点、CBSニュースが実施した世論調査(11月6日~11日)はアメリカ国民は実は中国を脅威とは思っていないとの結果を出した。中国をどう思うかという質問に対して、同盟国と答えたのは11%、友好国だが同盟国ではない48%、非友好国20%、敵12%という調査結果が出た。さらに中国に軍事的脅威をとても感じていると答えたのは25%、少し感じると答えたのは42%、脅威でないと答えたのが26%となっており、国民はもはや中国を大敵とは見ていないようである。
 
 この数値は衝撃的である。なにしろ、2001年以来テロとの戦争で政府が同盟国として位置づけてきたパキスタンに対しては、非友好国と答えた国民は39%、敵と答えた国民は24%に上っている。かろうじて友好国だが同盟国でないと答えた国民は21%、同盟国と認めたのはわずか2%にすぎない。米中はもはや敵味方と単純に割り切れない関係に突入しており、本音と建前を使い分けつつお互いが実利を得るようにしたたかに外交していくのだろう。

 そこにはアメリカがこれまで持っていた理想は微塵もない。アメリカには「世界のお手本になる」という理想があり、アメリカの民主主義を広めるというのがアメリカの戦略文化だった。だが今その文化は根底から揺らいでいる。独裁国家の民主化に対してアメリカは軍事介入すべきか、という問いに対しては反対する国民が70%を占め、国民が外国への派兵には否定的になっている。イラク戦争は無駄な戦争だったと67%の国民が考えており、前政権が謳った「イラクの民主化のための戦争」は、8年かけてその無意味さを証明したことになる。もはやアメリカはお手本になることを捨て、内にこもりつつある。

 オバマ大統領は外交政策においてはおおむね国民の支持を得ている。45%が外交政策を支持しており、対テロ政策に関しては63%という高い支持を集めている。一方で経済政策に関しては60%が不支持である。再選の最大の難題は相変わらず経済問題、しかも財政赤字問題であろう。ねじれ国会の中で有効な政策を打ち出せず、再選に向けての足かせとなっている。だが経済問題への対処が有効でないのは大統領のせいだけではない。なにしろ現議会への支持率はわずか9%で、83%の国民が議会はやるべきことをやっていないと、「議会不信」に陥っているのである。経済の安定にはまず政治の安定、かつて発展途上国に対して言われたことが、今のアメリカにもあてはまるのは、皮肉なめぐりあわせであろう。
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