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2011-11-22 20:15

「提言型政策仕分け」は、羊頭狗肉

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 政府の行政刷新会議(議長=野田首相)による「仕分け」は、今回から「提言形政策仕分け」と銘打って、これまでの3回が、無駄を排除すると称した政治パフォーマンスに堕していたのとは、一線を画そうとしている。すなわち、政策・制度の問題点を公開で検証し、中長期的な政策提言に活かす性格に変えるとのことである。しかし、20日に始まった「政策仕分け」を見る限り、そのナンセンスさはいささかも変わっていないように思われる。初日である20日に取り上げられたのは、原子力・エネルギー、農業、外交(在外公館)の各分野である。このうち、注目されたのは、やはり、原子力・エネルギーであり、この分野についてだけコメントしたい。それだけでも、「仕分け」が今回もナンセンスであることを示すのには十分であると思う。

 まず、高速増殖炉「もんじゅ」については、国民は予算を福島第一原発事故の放射性物質除染に回すことを望む、政府のエネルギー・環境会議が来夏にエネルギー政策見直し案を策定する、といった点を理由に、「存続の是非を抜本的に見直し、再検証を行うべきだ」と提言した。原発立地自治体向けの補助金である電源立地地域対策交付金、および、それを支出するためのエネルギー対策特別会計については、「除染や廃炉などといった福島第一原発の事故対策や、再生可能エネルギー対策にシフトすべし」として、同交付金の使途拡大、同特会の抜本的見直しを提言した。「もんじゅ」の実現可能性については疑問が呈されており、「もんじゅ」の見直し自体には、私は、必ずしも絶対反対というわけではない。また、電源立地地域対策交付金の福島第一の事故対策への転用も、ありうべきことと思う。

 しかし、今回の仕分けも、中長期的な政策提言に結びついてはいない。行政刷新会議は、将来のエネルギー政策の全体像について示すことには失敗しており、結局、エネルギー・環境会議に委ねている。そうでありながら、原子力関係の開発予算について、「合理化を図るべきだ」といっているのは、全く理屈に合わない。原子力関係の開発予算には国際熱核融合実験炉(ITER)関連も含まれている。また、原発輸出もある。これらは、国際的な問題であり、我が国の整合的なエネルギー戦略に基づくべきものである。

 行政刷新会議が中長期的な政策提言に失敗しているのは、必ずしも、メンバーの資質の問題というわけではないと思う。中長期的な政策提言には、腰を据えた分野横断的な議論が必要だが、「仕分け」は、個別の予算について、拙速に判断するという仕組みになっている。これでは、「提言型政策仕分け」と名称を変えたところで、従来のものと大同小異であり、意味のあるものにならない。その仕組みにこそ、根本的な問題がある。行政刷新会議による「仕分け」の結果は拘束力を持つものではない。杜撰な内容の仕分け結果が拘束力を持たないのは不幸中の幸いであると言えないこともないが、諮問機関としては役に立たないのだから、無駄な労力である。民主党政権は、いい加減に、今の「仕分け」が、愚行と言って言い過ぎならば、ナンセンスであることを認め、これを廃止するべきである。
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