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2011-11-22 07:00

野田の「消費増税でも二枚舌」はすぐにばれる

杉浦 正章  政治評論家
 松下政経塾というのは「詭弁」「強弁」を教えるところなのだろうか。首相・野田佳彦や政調会長・前原誠司らの発言を聞く度に、国の外交・内政を「論争技術」で切り抜けようとしているとしか思えない。大学の弁論部が内容よりも話術での「論破」に傾斜しているのとそっくりだ。野田は環太平洋経済連携協定(TPP)での“二枚舌”に次いで、最大の焦点消費税増税でも、法案は作るが、そのあとの選挙結果次第で増税の実施はしないかもしれない、という詭弁を弄した。誰がこれを信ずるか。法案成立の既成事実が出来れば、増税確定以外の何物でもない。野田政権の「詭弁」「強弁」のすべては、民主党が2009年の総選挙前の公約である政策集に「税率5%を維持する」と記して選挙に勝ち、首相・鳩山由紀夫が「4年間、消費税の増税を考えることは決してない」などと繰り返したことに端を発する。その後首相・菅直人が参院選前に消費税導入へと方針転換、6月に閣議決定にはいたらないが「2010年代半ばまでに消費税率を10%とする」方針を、一応決めている。これは明らかに衆院選の公約をそのままにして、なし崩しで消費増税に踏み込もうとする意図がうかがえることになる。

 これを背景として見ると、野田の第1の詭弁は、任期中の消費増税を否定しておきながら、増税法案だけは「実施が選挙後だから、任期中に作ってもよい」という点に集約される。しかし法案を作るということは、誰が見ても増税への下地を確立することに他ならない。ここに詭弁がある。第2の詭弁は、11月21日の答弁。選挙に敗北した場合には「当然、民意を踏まえた対応がある」と述べて、あたかも「増税の実施は困難になる」との認識を示したことだ。しかし法案成立後の総選挙に敗北したからといって「増税が実現しない」ということはあり得ない。なぜなら「経済状況を好転させることを前提として、段階的に消費税を含む税制の抜本的な改革を行うため、2011年度までに必要な法制上の措置を講じる」という路線は、改正所得税法の付則104条で、自公政権が敷いたものである。だから政権が変わってもせっかく成立した法案を、次の政権でほごにすることはあり得ないからだ。民主党政権が“犠牲”になって成立させた消費税法案を、自公政権はありがたくちょうだいして実施に移すのだ。だいいち与野党が賛成では、選挙の焦点にはなっても、争点にはならない。

 いずれにしても「消費増税は実現する」ことを知りながらの野田発言であり、“二枚舌”が読めるのだ。その証拠には、財務副大臣・五十嵐文彦が21日「2013年10月以降に税率を1回目の引き上げをして7~8%にする。残りの2~3%は15年の4月か、10月になる」とスケジュールまで述べているではないか。語るに落ちるのだ。前原の詭弁は、その付則第104条に関わる。民主党は麻生政権時代に付則に対する反対討論を行っているのだ。にもかかわらず付則を踏襲していることについて、前原は「あのときは法案へのトータル・パッケージの中で反対したのだ」と述べたが、英語でごまかしてはいけない。トータル・パッケージなら「付則まで含む反対」でしかあり得ない。このように松下卒業生は早稲田雄弁会卒業生よりもっと、口から先に生まれてきた色彩が濃厚であるが、政治家の発言は、その場しのぎでは済まされない。詭弁は遅かれ早かれ分析され、狙いが分かってしまうのだ。野党はこうした野田“二枚舌”政治に焦点を合わせて追及し、解散・総選挙に追い込んで行くことになる。それにしても塾の創始者・松下幸之助が草葉の陰で「詭弁の大家」続出を嘆いているのではないか。

 ところが、マスコミの論調はどうかというと、端的に言えば「二枚舌でも消費増税の方がよい」だ。ポイントを突く社説は朝日と読売だけが書いているが、朝日は11月10日付で筆者のように「首相の説明は、明らかに強弁であり、おかしな言い分だ」と野田発言の虚飾性を指摘している。しかし「首相はまず率直にわびるべきだ。そして、ユーロ危機の深刻さを直視し、消費増税の必要性を丁寧に説明することだ」と結んでいる。つまり「謝れば許す」というのだ。一方読売にいたっては8日付で、逆に野党をしかっている。「確かに、消費税率を上げなくても財源を生み出せるとした民主党のマニフェストには欠陥がある」と批判しながらも、野党を「マニフェストを盾にとり、消費税の記述がない以上、衆院を解散すべきだと主張するのでは、与党に機動的な対応を取らせないと言うに等しい。これでは“マニフェスト至上主義”ではないか」というのだ。要するに、マスコミは、野田の詭弁には目をつむるから、この機会を逃さず消費増税を実現せよというのだ。もっとも与野党がガチンコ対決になって、にっちもさっちもいかなくなった場合、マスコミは、法案を成立させた上での早期解散を主張する可能性が高いとみる。
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